No.442

News 25-10 (通巻442号)

News

2025年10月25日発行
スターツおおたかの森ホール 夜景 🄫藤本史昭

コンサート2話 スターツおおたかの森ホールにて

 今月は、夏から初秋にかけて流山(千葉県)で聴いた2つのコンサートを取り上げたい。会場はいずれもスターツおおたかの森ホール(494席)である。現在、「スターツ・シアターワークショップ共同事業体」が指定管理会社として運営に携わっており、同事業体からコンサートに招待いただいた。

スターツおおたかの森ホール 夜景 ©藤本史昭
スターツおおたかの森ホール 夜景 ©藤本史昭

 このホールの概要については、本ニュース377号(2019年5月号)を参照いただきたい。移動観覧席備えた多機能ホールでありながら、生音の響きを重視した室内音響設計が施されている。コンサート形式では、大きく傾斜の付いた段床客席からの舞台の見通しが良く、このことが豊かな響きと音の明瞭性の両立に寄与している。

スターツおおたかの森ホール 内観 ©藤本史昭
スターツおおたかの森ホール 内観 ©藤本史昭

おおたかの森スーパー・アンサンブル(7月20日)

 メンバーは、岡本誠司(ヴァイオリン)、横溝耕一(ヴァイオリン/ヴィオラ)、佐々木 亮(ヴィオラ)、横坂 源(チェロ)、幣 隆太朗(コントラバス)、秋元孝介(ピアノ)の6名。皆さんそれぞれ、ソロ、別のアンサンブルメンバー、オーケストラメンバーとしても活躍している精鋭である。1年前の2024年7月、この内5名が「おおたかの森スーパー・クィンテット」として登場し、シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」他が演奏された。筆者の印象として、スケールの大きな演奏であった記憶がある。

 今回は、フンメル:ピアノ五重奏曲、メンデルスゾーン:ピアノ六重奏曲、ドヴォジャーク:弦楽五重奏曲というプログラムであった。作曲者は有名であるものの、少なくとも筆者にとっては初めて聴く曲ばかりであった。共通しているのは、いずれもコントラバスが加わっていることである。コントラバスが入ることで、小人数ながら音の裾野の広さと奥行きが増した印象であった。

おおたかの森スーパー・アンサンブル メンデルスゾーン:ピアノ六重奏曲 ©藤本史昭
おおたかの森スーパー・アンサンブル
メンデルスゾーン:ピアノ六重奏曲
©藤本史昭

 この日聴いたのは、後壁に近い2階席の中央付近であった。ステージの見通しがよく、適度な響きの中で各奏者の音の動きをストレスなく追うことができた。また、白熱した場面でも飽和することなく響きに余裕が感じられた。このアンサンブルの演奏会はこの日限りとのこと。もったいないですね、と関係者にお伝えしたところ来年も企画されているとのこと、大いに期待したい。

舘野泉ピアノ・リサイタル(9月27日)

 「左手のピアニスト」として知られる舘野泉さんを聴いた。プログラムはマグヌッソン:組曲「アイスランドの風景」より、ノルドグレン:小泉八雲の『怪談』によるバラードⅡ、ティエンスー:Egeiro(復活)、吉松隆:3つの聖歌。いずれも「舘野泉の左手」に捧げられたオリジナル作品とのことである。こちらもほとんどは初めて聴く曲であったが、吉松隆さんの「3つの聖歌」には聴き覚えのある旋律が現れた。アヴェ・マリア(シューベルト)、アヴェ・マリア(カッチーニ)、フィンランディア賛歌(シベリウス)の3曲構成で、カッコ内の作曲者の作品を吉松さんが「左手」のために編曲した作品である。この内カッチーニのアヴェ・マリア以外は「難しいのであまり弾かないが今日は意を決して弾きます」と紹介して演奏が始まった。3曲目はフィンランディアの中の、合唱も加わって演奏されることもある中間部の讃歌で、幾重にも積み上がった音の中に旋律が浮かび上がり、左だけで演奏されているようにはとても思えない厚い響きが強く印象に残っている。

舘野泉 ©満田聡
舘野泉 ©満田聡

 この日は2階席の上手寄りで聴いた。前回のアンサンブルと同様に、程良い量と長さの響きの中で心地よくピアノの旋律を追うことができた。そして、アンコールに演奏された山田耕筰の「からたちの花」と「赤とんぼ」は、高揚した気分を落ち着かせてくれた。

余談 拡声音

 最近はコンサートホールにも「弓なり」のラインアレイスピーカが導入されるようになった。響きの長いコンサートホールでは、明瞭な音声を届けられるという意味ではむしろラインアレイスピーカが適していると言えなくもない。このホールは2019年オープンではあるが、ポイントソース型と呼ばれる箱型スピーカをクラスター状に構成したシステムが導入されている。そのスピーカから発せられる柔らかい音声を久しぶりに聞いた。あくまでも個人的な印象ではあるが、光に例えるとラインアレイ/LEDに対してポイントソース/白熱球で、聞いていて安心感がある。

ポイントソース型スピーカ クラスター
ポイントソース型スピーカ クラスター

NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭2025

 来月11月1日から3日間にわたり、流山市在住で世界的ピアニストのパスカル・ドゥヴァイヨンさんと村田理夏子さんが音楽監督を務める音楽祭が開催される。国内外から集まった一流の演奏家による連弾やデュオ、六重奏など、多彩なプログラムの室内楽が楽しめるという案内をいただいた。秋葉原から流山おおたかの森へ、つくばエキスプレスで30分。訪れてみてはいかがでしょうか。(小口恵司記)

スターツおおたかの森ホール:https://starts-otakanomorihall.com/

NAGAREYAMA国際室内楽音楽祭2025:
https://starts-otakanomorihall.com/event/nicmf2025/