永田音響設計News 97-6号(通巻114号)
発行:1997年6月25日





CUBE(白石市文化体育活動センター)

CUBE平面図
CUBE外観
 白石市が文化・体育活動の拠点として東北新幹線白石蔵王駅東側に整備を進めていた白石市文化体育活動センター(愛称CUBE)がこのほど完成し、5月14日に落成記念式典が行われた。(設計監理:堀池秀人都市・建築研究所)

施設概要:外観は、ガラスとセメント板で構成されたシンプルな直方形の箱で、その中の約1/3に基本平面形を楕円とするガラスのコンサートホール(610席)と宙に浮いた宇宙卵と呼ばれるカフェがあり、約2/3がアリーナ(4,800m3)になっている。アリーナとコンサートホールおよびその周辺空間とは巨大な(H=14m,W=50m)可動間仕切壁で仕切られ、またアリーナ内も同様の間仕切壁により用途に応じて仕切られる。
 コンサートホール舞台正面壁にある大扉を開放すると正面にアリーナの大空間が拡がり、舞台背後の大空間を利用した演劇やオペラなどの演出にも役立たせることができる。


コンサートホールの内観
ガラスのコンサートホール:コンサートホールの基本構想には、現在、本ホールの音楽監督に就任されている作曲家の三枝成彰氏が参画された。三枝氏はホールの音響に対し「ヨーロッパの大聖堂のような余裕のある長い響き(残響7秒)《を要望された。そして堀池氏のイメージされたホールは「屋外に居るような明るいオーディトリウム《であり、白石市長の考えは「これまでのホールの概念を捨て他にない特徴あるホールを作る《であった。壁、椅子がガラスでできたホールというコンセプトは、このような三者の考えやイメージに対しては実に明解であったが、一般利用を想定した場合の音響条件の設定は難題だった。

残響時間周波数特性
コンサートホールの室内音響:平面形は楕円でガラス壁面は全て垂直だが、遮音、室内音響を考慮して壁は2重サッシとし、内側のガラス壁面は平面的には音響的に好ましい大きさと角度に調整した。天井は様々な角度をもった三角形の面で構成されており、これにより客席に到達する初期反射音の分布状態は、様々な建築上のハンディはあったものの、良好な結果が得られた。また、残響時間はできるだけ長くという要望に対し椅子はもとより、内装に一切吸音材を使わないことで、空席時で3.9秒/500Hz、満席時では2.2秒(計算値)となった。これ程長い残響のホールは、一般の利用者にとっては使いづらいものであるため、ある程度の残響の調整ができるように側壁上部に収紊式の吸音カーテンを設置した。これを使用することにより空席時2.4秒/500Hz、満席時1.6秒となる。このカーテンは、コンサートのリハーサル及び拡声設備を使用する講演会等の催しにおける利用を前提としている。

パイプオルガン:この長い残響時間の前提にはパイプオルガンを主体とした宗教音楽に着目した三枝氏の構想がある。本ホールのパイプオルガンは大林徳吾郎氏の製作で、スピーカを組み込んだ115ストップという大型のものであり、MIDIインターフェースを介して自動演奏と他の楽器の生演奏との共演もできるというユニークなものである。演奏者を呼んでの演奏会は頻繁には開くことができないが、ここでは無料の自動演奏の音楽会も計画されている。

ホールの運用:オープニングコンサートは三枝氏のプロデュースで6月27~29日に開かれる予定だが、この他三枝氏が講師となって「三枝成彰・音楽大学《というクラシック音楽講座を毎月開く予定である。本ホールは特殊な施設だけに、今後はCUBEならではの長い響きを生かした音楽イベントなど、魅力ある企画を期待したい。(小野  朗 記)

電気音響設備:コンサートホール、アリーナいずれの電気音響設備も明瞭で聞き取りやすい場内放送とスピーチの拡声に目標を絞って設計を行った。すなわち、音声の周波数帯域に主眼を置き、最近の多目的ホールに設備されることの多い音楽再生用の超低音用スピーカ、いわゆるサブウーハは設置していない。

[コンサートホール]響きの長い空間で、いかに明瞭度を確保するかを考慮してスピーカを構成した。主スピーカは、ステージ鼻先上部の天井に、3台のスピーカで構成されるスピーカクラスタを左右1基ずつ露出して吊り下げた。片側3台のスピーカのうち、2台は客席用、1台は舞台上へのはね返り再生用とした。これらのスピーカの設置にあたってはスピーカからの放射音がガラスの壁に当たらないよう、入念に放射角度の設定を行った。特に、客席用のスピーカについては、この規模のホールに使用するものとしてはやや大きめのものを選定した。ユニットはEAW社製の3Wayである。サブのシステムとしてステージの立ち上がりの部分に6台のステージフロントスピーカを設置し、天井のスピーカクラスタと併用した。完工時の試聴テストでは、側壁のカーテンが無い状態でも、満足のいくスピーチの明瞭度が得られていることを確認した。このような響きの長い空間であっても適切なスピーカシステムを適切な個数、向きに設置すればスピーチの明瞭度は確保できることを改めて確認することができた。

> [アリーナ]一般の施設と違って、本施設ではV=63,500m3のアリーナの方がコンサートホールより響きは短く、空室時2.7秒/500Hzである。音源となるステージが特定できないこと、パーティションで空間が分割されることなどを考慮して、12台のスピーカを天井に分散配置した。コンサートホールとは逆に、この規模の空間としてはやや小さめのスピーカであるが、指向性がこの空間に合っていることから、EAW社製の2Wayを使用した。スピーカから床面までの距離が長く、床面積もかなり広いため、12台でアリーナ全体をカバーするのはやや無理があるようにも感じていたが、試聴した結果、いずれの場所においてもスピーチの明瞭度は満足できることを確認した。(菰田基生 記)

(連絡先:CUBE/宮城県白石市鷹巣字鳥喰50番地、Tel.0224-22-1290,Fax.0224-22-1289)


何でもありますUSプロオーディオショー

NSCAショー
 全米のプロオーディオとその関連業界のメーカーが年に一度、一堂に会して大々的なショーを開催している。これがNSCAショーである。今年はノースキャロライナ州中央部にあるキャロット市のコンベンションセンターで開催された。

 まず、驚いたのは会場の広さと500社近いという参加企業の数であった。展示と商談用のスペースとしては大メーカも零細企業も6畳程度の広さのブースに統一されている。また、別室の小型の展示スペースにデモ用のルームがたくさんあり、そこでは音出しも自由で、各社、思い思いにとてつもない大音量でデモッていた。出展品目の種類の多さにも感動、オーディオ関係機器のみならず、その工事をサポートするコネクター、ケーブル、盤・ラック、コンセント等から脚立、ワイヤリングツール、等々。中にはホール内にワイヤー、ケーブルを空中敷設するためのツールまであった。これはなかなかの傑作で、石ころをとばすパチンコと釣りに使うスピニングリールを組み合わせた装置である。リールに巻かれた釣り糸の先に重りを結びパチンコで目的の場所へ発射し、そこでケーブル等を結び、釣りのリールで糸を巻き取ることによってケーブルを自動的に空中敷設するという仕掛けである。

指一本で持ち上げられる
超軽量スピーカ
 プロオーディオ機器では軽量スピーカシステムの極致といえる製品が展示されていた。これはスピーカユニットではなくエンクロージャの工夫で、素材はカーボン繊維、デッドニングにアイデアを要したと思われるが、38cmウーハー使用の中型システム用ボックスが指一本でも持ち上がるほどの軽さである。形状も自由、少々値は張るであろうがツアーリング用として魅力のある製品である。また、固定設備でも、重量に制約が多い改修の場合には軽量というのは大きなメリットである。一方で省スペースをねらったスピーカシステムの出展もあった。これは、中音部に奥行きの長いホーンを採用せず、クォリティの高い小型コーンを使用して、システムの奥行き寸法を切り詰めたものである。しかも、このミッドレンジは90度回転可能で、縦置き、横置きに対応できるため、システムプランニングの自由度は高い。

 システムコントローラにも魅力ある製品があった。最近の製品は、コントロールの仕様を事前に設定できるという点では同じであるが、さらに、現場でユーザーが独自に使用実情に合わせ設定仕様を自由に変更、更新できるという製品もあった。

 以上の紹介は視察のほんの一部であるが、他にも多くの自由な発想から生まれた製品、機器、システムなどが目についた。これは、メーカーと施工者の役割分担がはっきりしているアメリカのプロオーディオ市場の事情によるという見方もできるが、それだけではなく先人のアイデアに対しては素朴に敬意を表わし、良いものは採用するというおおらかなアメリカ人気質によるものではないだろうか。だからこそ、特殊なものも市場に浸透し発展してゆくのであろう。様々なことを改めて感じた今回の視察であった。(浪花克治 記)


“ホ*ル電気音響設備を考える会”のご案内

 前号でご案内したように、「ホール完工時の音響調整《をテーマに、第3回“ホール電気音響設備を考える会”を下記の通り開催いたします。お気軽にご参加下さい。なお、会費は無料です。(詳細は前号を御覧下さい)
     日  時:7月1日(火)午後2時~4時
     会  場:調布市文化会館たづくり(くすのきホール)
          TEL:0424-41-6111 京王線調布駅南口から徒歩3分
     お問合せ:事務所/内田(TEL:03-3351-2151)


永田音響設計News 97-6号(通巻114号)発行:1997年6月25日

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