永田音響設計News 88-1号(通巻1号)
発行:1988年1月25日





【News発行にあたって】
 前々から私どもの事務所の活動状況やホール音響の話題をご紹介し、より深いご理解の中で仕事を進めていきたいと考えておりました。そこで、今月より永田穂建築音響設計事務所Newsとして、“静けさ、よい音、よい響き”をお届けさせていただくことになりました。
 さしあたっては毎月の定期発行を目標として、手近な話題からまとめ、おいおい内容の充実を図っていきたいと考えております。皆様のご感想、ご意見をいただければ幸いでございます。(永田 穂)

サントリーホールの一年

 サントリーホールは昨年の10月12日でオープン一年を迎えました。サントリー側の資料によりますと、オープニングシリーズ終了後の昨年の4月以降、今年の3月までの一年間の主ホールの稼働状況は330公演、昨年の10月6日で利用者は50万人を超えるという予想以上の盛況を呼んでいます。
 利用状況について面白いのは、

  ・男女の利用率がほぼバランスしている。
  ・各年代層に利用されている。
  ・これまでクラシック音楽に縁のなかった層が来場している

などの点で、このホールの特徴の一つを表しているように思います。
 サントリーホールの教えるもの、それにはいろいろあると思いますが、まずは“企画”と“サービス”、この二つが今後のホールにとってどんなに重要であるかということではないでしょうか?これまでのホールのサービス体制が改善されつつあることも、音楽ファンにとってはありがたいことです。

大ホール利用状況
公演総数333回
(198610.12-1987.12.31)

 開館以来昨年12月末までの14ケ月間の音楽のジヤンル別の大ホールの利用状況は図のとおりです。オーケストラの利用が333公演中116と最も多く、“オーケストラに最適の響き”を目標とした音響設計の狙いが活かされた結果となっていることは嬉しい限りです。
 最近はポピュラー音楽にも利用されるようになったきました。このようなライブな空間でのSR(音楽の拡声)のありかたについて、一つの途が開かれることを期侍しています。
 ご参考までに、サントリーホールに関する音響設計を中心とした学会報告書、専門誌記事のリストを以下にまとめました。

《 資料:サントリーホール音響設計関連文献リスト 》

▼学会、研究委員会報告書

 ▽“サントリーホールの音響設計”[永田、豊田、小野、浪花、稲生]
   ……日本音響学会:建築音響研究委員会資料AA84-40、1984.11.26

 ▽“サントリーホールの音響設計(その1. 音響設計と音響特性)”[永田、豊田、小野、浪花、稲生]
   ……日本音響学会:講演論文集3-7-11、1986.10

 ▽“サントリーホールの音響設計(その2. 音響模型実験)”[永田、小野、豊田、小口]
   ……日本音響学会:講演論文集3-7-12、1986.10

 ▽“サントリーホールの音響設計(その2:音響模型実験と音響特性)”[永田、豊田、小野、浪花、
   稲生]
   ……日本音響学会:建築音響研究委員会資科AA86-29、1986.9.8

 ▽“AC0USTICAL DESIGN 0F SUNT0RY HALL”[永田、豊田、小野]
   ……12th INTERNATIONAL C0NGRESS 0N AC0USTICS
      :Volume/Band ・、E3-1、
      1986.7.24-31、TORONT、CANADA.


▼専門機関誌報告記事

 ▽“ホール図録:サントリーホール”
   ……劇場技術NO.71、1987/JAN.、p.29-34、日本劇場技術協会

 ▽“サントリーホールの音響設計と音響特性”[豊田]
   ……放送技術VOL.40 NO.2、1987/2、p.130-136、兼六館出版

 ▽「特集:サントリーホールにみるホールアコースティック&サウンドシステムガイド《

  ・“図録”p.103-109
  ・“サントリーホールの建築音響設計”[豊田]p.109-112
  ・“サントリーホールの電気音響設備”[浪花]p.113-116
   ……PR0S0UND VOL.17、1987/2、ステレオサウンド社

 ▽“サントリーホール”[小野]
   ……音響技術vol.16、no.1、1987/3、p.30-34、音響材科協会

 ▽“サントリーホールの音響”[永田]
   ……JAS journal Vol.27 No.4、1987/4、p.5-11、日本オーディオ協会

 ▽「特集:サントリーホール《

  ・“座談会:サントリーホールを語る”[小谷喬之介(司会)、山崎一夫、佐野正一、永田穂、
   諸井誠、田邊健雄]p.5-12
  ・“サントリーホールの音響設計と音響特性”[豊田]p.29-33
   ……劇場技術NO.72、1987/APR.、日本劇場技術協会


▼一般雑誌記事

 ▽“クロークヘどうぞ”[永田]
   ……JAS journalVol.26 No.12(コラム)、1986/12、日本オーディオ協会

 ▽“都市の中の葡萄畑(ワインヤード)―音響設計者から見たサントリーホール―”[永田]
   ……季刊サントリークォータリー、No.26、1987、「特集:クラシック音楽の聴き方《、p.58-61、サントリー

松本市音楽文化ホールにオルガン入る

 ザ・ハーモニーホールとして一昨年オープンしました松本市音楽文化ホールにオルガンが設置され、市政80周年のお祝いを兼ねて披露の式典とコンサートが昨年の10月3日に行われました。
 このオルガンは西独ベッケラート社の43ストップ、3段鍵盤のオルガンで、たいへんやさしい響きのオルガンです。
 地方公共ホールのオルガンが果たしてどの位利用されるだろうかという問題は計画当初から懸念されてきました。ところがこのホールのオルガンは大変な人気で、オルガン演奏のあるコンサートは満席が続いているという状況です。
 会館の職員として、音楽大学のオルガン科卒業のお嬢さんを採用したことも公共ホールとしては画期的な人事で、見学の際は何時でもオルガンを聴くことができます。オルガン担当の星野好生さんの“城下町のオルガン”という吊文が、日本オルガニスト協会の会報1987年12月号にのっていますので、興味のある方は目をとおしてください。

 このホールは南アルプスが眺められるすばらしい敷地にありますので、安曇野の散策を兼ねてのコンサート行きをお薦めいたします。
 プログラムにつきましては、直接ホール事務局(Tel:0263*47*2004)か、あるいは私どもまでお問い合わせください。
 なお、このホールは館長はじめ事務局職員と市民が密着した運営の姿勢が高く評価されている公共ホールらしからぬ雰囲気のホールです。見学の際にはこの点にもお気をとめていただきたいと思います。

二つのシューボックスホール

 昨年末、東京郊外の多摩市に多摩市複合文化施設“パルテノン多摩”が、神田駿可台の主婦の友ビルに“カザルスホール”がオープンしました。
 パルテノン多摩は大小の多目的ホールの他に練習室、展示室、会議室をもった大型の文化施設です。この大ホールはクラシックコンサート指向ということで、客席部分は幅約26m、奥行き約36mのほぼ矩形の平面形をもった1414席のホールです。カザルスホールは幅約18m、奥行き約34mの段床が殆どない、その吊のとおりのシューボックス、直方形の511席のホールです。
 シューボックスホールの課題は、一体どの程度の規模まで、なるほどシューボックスの響きだといいきることができる音響効果のホールが実現できるかという点ではないでしょうか?この二つのホールは規模も違いますが、今後の演奏を通してどのような評価が生まれるのか、興味ある課題です。
 各ホールの平面形と残響特性を資料として載せておきます。
 なお、パルテノン多摩は新宿から京王線あるいは小田急線で多摩センター駅下車徒歩約5分。カザルスホールはJRお茶の水駅下車、駿河台方向に下って約5分の所です。
 お問い合わせ・パルテノン多摩:〒206 多摩市落合2-35(財〉多摩市文化振興財団
           Tel:0423-75-1414

       ・カザルスホール:〒101 千代田区神田駿河台1-6お茶の水スクエア内
           Te1:03-3294-1229


平  面  図 (左:パルテノン多摩、右:カザルスホール)

断  面  図 (左:パルテノン多摩、右:カザルスホール)

残 響 特 性
左:パルテノン多摩 RT=1.8s(2.0s) 1987.11測定
右:カザルスホール RT=1.6s(1.8s) 1987.9測定



永田音響設計News 88-1号(通巻1号)発行:1988年1月25日

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