静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 10-03号(通巻267号)

発行:2010年3月25日

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西南学院大学チャペルのオルガン

写真1 チャペル内観
写真1 チャペル内観

 西南学院大学の新チャペル建設の経緯については本News08-12号に紹介してあるが、その工事期間中、旧チャペルにあったオルガンは分解され、キャンパス内に保管された。このオルガンはわが国オルガン製作の草分けともいえる辻宏氏の44号の作品で、1986年、西南学院の創立70周年記念事業の一つとして、ランキンチャペルの上手舞台脇コーナーに設置された。このオルガンは17、18世紀の北ドイツのバロック様式の3段の手鍵盤と足鍵盤、33ストップ、Rückpositive(7ストップ)をもつ中規模の楽器である。

 オルガンの解体は辻オルガン、後半の組み立て、ヴォイシングの作業は藤吉オルガンの受注という形で行われたが、一連の作業は藤吉正吾氏とその仲間達が担当した。

 新チャペルではオルガンは写真1のように舞台正面のバルコニー中央に設置された。また、その床構造はオリジナルの構造を復元し、30mm厚の樅(もみ)の板を松の横引きで支持しただけの“鳴りやすい”構造とし、その床下空間にブロアーと鞴(ふいご)が設置された。この床の効果を考慮し、鞴室の舞台側は格子とし、オルガン演奏時以外は引戸をつけ、遮音をかねて、舞台側からみて反射壁となるようにした。

図1 チャペルの残響時間
図1 チャペルの残響時間

 オルガンの調整がほぼ完了した2010年1月12日、オルガンの試聴をかねてオルガン設置後のチャペルの音響特性の測定を実施した。この際、同学院のオルガニストで、音楽主事の安積道也氏にオルガン演奏をお願いした。オルガン設置による残響時間の減少は約10%であった。測定値を図1に示す。

 オルガン階下の鞴室であるが、開口部をとおしての送風音が予想より大きかった。しかし、一方で、オルガン階下の引戸を開放することで、オルガンの音色が艶やかになり、輪郭がはっきりするという効果も確認された。その発生源は送風ダクトが直角に折れ曲がっている箇所から発生する渦流音であることを突き止め、送風の流れをスムーズにする対策とダクトの遮音を藤吉氏にお願いした。

 オルガンの披露演奏会は1月24日の午後、安積氏の音楽主事就任の披露をかねて満席のなかで行われた。H.シャイデマン、J.S.バッハに続いて、F.メンデルスゾ−ンから現代曲までのオルガンの名曲が多彩な音色で新チャペルの空間をみたした。筆者の席は最前列、舞台後部の格子をとおして鞴の動きがぼんやり見えたが、騒音は全く感知できなかった。次のオルガン演奏会は6月19日(土)午後に予定されている。問い合わせは、〒814-8511福岡市早良区西新6-2-92 西南学院本部宗教局事務室 TEL.(092)823-3339まで。(永田 穂記)



マリインスキー劇場コンサートホールに新オルガン誕生

写真1 新設されたオルガン
写真1 新設されたオルガン

写真2 オルガン設置前のホール
写真2 オルガン設置前のホール

 サンクト・ペテルブルグ(ロシア)のマリインスキー劇場に1100席規模のコンサートホールが新設されてオープンしたことは本News07-01号に紹介した。このコンサートホールに昨年秋、新たにオルガンが設置されたのでそれについて報告する(写真1)。

 コンサートホールがオープンしたのは2006年11月のことであったが、この時点では未だオルガン設置の計画は無かった。ホール正面上部にはガラス窓が設置され、リハーサル等に使用される多目的の室を通じて外光が採り入れられるように設計されていた(写真2参照)。マリインスキー劇場の芸術総監督のヴァレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev)によってオルガン設置の英断が下されたのは2008年の夏のことである。ホール正面のガラス窓は撤去され、オルガンの一部が背後の多目的室に入り込む形で計画された。ホールと多目的室との間に新たな区画壁を設置することになったのである。

 筆者はコンサートホールの音響設計者としてこのオルガン設置のプロジェクトにコンサルタントとして参加を求められ、オルガン選定やオルガン設置に関して必要な関連工事のアドバイスを行った。オルガンの製作者としては、ケルン社(Kern)のダニエル・ケルン(Daniel Kern)氏がストラスブール(仏)から招聘された。オルガンの設計から製作、設置、整音までの全工期は2008年10月〜2009年9月の約1年。オルガン完成後ただちに披露コンサートが行われ、その後は月に1〜2度のオルガン・コンサートが開催されている。

 筆者は完成後のオルガンの音を聞く機会になかなか恵まれなかったが、先だってやっとその機会を得た。劇場所属のオルガニストであるオレグ・キニアエフ(Oleg Kiniaev)氏のご好意により、このオルガンの多彩な音色を楽しませてもらった。それら色々な音の印象をまとめて簡潔に表現するのは容易でないが、敢えて一言でいうと「非常に美しく、しかも立体的で奥行き感のあるサウンド」。次から次に演奏される様々な音色のパッセージをずっといつまでも聞いていたい、この美しい音で満たされた空間にずっとこのまま浸っていたい、と思った。

 圧倒的に高い天井と大容積がもたらす豊かな残響にめぐまれた教会や大聖堂と違い、一般的にコンサートホールの音響空間はオルガンにとっては響きの不足を感じることが多く、その分オルガンの音色はよりストレートに聞こえてくる。オルガンの音そのものに魅力が無いと楽しめないことをしばしば経験するが、ここマリインスキー劇場ではコンサートホールのオルガンとして第一級の素晴らしいオルガンが誕生したことを確信した。日本からはちょっと遠いが、当地に行く機会のある方には是非聞いていただきたい。(豊田泰久記)

 オルガン諸元:総ストップ数:53、総パイプ数:2942、幅6020×高さ7310×奥行4900mm

 マリインスキー劇場ホームページ:http://www.mariinsky.ru/en



舞台音響反射板について〜その3〜

 前回(本News09-11号)は、多目的ホールにおける舞台音響反射板の収納方式の違いと各方式(天井収納方式、奥舞台収納方式)の特徴、それぞれの実例について紹介した。今回は奈落収納方式を中心にその他の方式の特徴と実例を紹介する。

◆1.1.奈落収納方式の特徴
 この方式は、舞台音響反射板を一体型として、舞台の床下スペースに降下させて収納する方式である。舞台床下に収納する反射板と舞台上部の吊物装置には取り合いの問題がないため、照明やバトンを自由に配置できる。音響的にも反射板形状や仕上げの凹凸形状の制限が無く、反射板間の隙間も最小限に抑えることが出来る。しかし、舞台床下に大規模な収納スペースが必要となるため、建築計画に与える影響が大きく、舞台に迫り・奈落を設けにくい等の制約も生じる。

図1. 収納方式の改修前後
図1. 収納方式の改修前後

◆1.2.奈落収納方式の実例〜東京文化会館〜
 東京文化会館は、クラシックコンサートをはじめ、オペラやバレエにも対応するホールとして1961年にオープンした。当時は正面反射板を舞台後方に、側面・天井反射板を舞台上部に収納する方式が採用されており、舞台上部の反射板収納位置と吊物装置の配置の取り合いの問題から、オペラやバレエにおいては照明・バトンの機能に制約があった。そのため、吊物装置の機能を高めるために2度にわたって反射板の収納方式を変更する改修工事が行われた。まず1970年には、側面反射板を上下に分割し、下半分を舞台床下に収納する方式とした(図1左)。さらに1999年には、施設老朽化に伴う大規模改修工事(本News99-08号)の一つとして、反射板を一体型として全て舞台床下の奈落スペースに収納するという工事が行われた(図1右)。この工事では、幅21m、高さ13m、奥行き9m、重量約81tにも及ぶ一体型の反射板を収納するために、舞台床下にある既存のピットをさらに約8mも掘り下げて地下収納スペースを作り出している。

左:反射板設置時
左:反射板設置時
中:収納途中の反射板
中:収納途中の反射板
右:反射板収納時
右:反射板収納時
写真1. 東京文化会館の反射板収納過程

 この収納方式の変更によって舞台上部のスペースに余裕ができ、さらにフライタワー内の構造体も改修・強化した結果、吊物装置の本数(改修前:29本→改修後:49本)や耐荷重といった機能が大きく改善された。なお、音響に関しては、長年親しまれたホールの響きを維持するため、反射板の構成材料(合板t6+ダンピングシート+合板t6)や舞台床(檜t30)の仕様を改修前後で変えていない。東京文化会館は改修によって奈落収納方式に変更された例であるが、計画段階から奈落収納方式が採用された施設としては、泉佐野市立文化会館(本News96-10号)や桐生市市民文化会館、NHK大阪ホールがある。

写真2. Bard College
写真2. Bard College

写真3. ビッグハート出雲
写真3. ビッグハート出雲

写真4. 石巻市桃生公民館
写真4. 石巻市桃生公民館

◆2.その他の舞台音響反射板の実例
 ここまで、一般的な舞台音響反射板について収納方式毎に紹介してきたが、それらとは異なる特徴的な反射板の実例についても以下に紹介したい。


例1. Bard College(本News03-07号、写真2)の多目的ホールでは、スタッフが専用のフォークリフト装置を用いてセッティングする移動型の側面反射板が採用されている。一般的に移動型反射板は、安定して自立する構造となっているので重量が重く、設置位置の調整も必要となるため、収納場所や移動動線を簡略化しても設置作業には大変な手間が掛かる。ここではその労力には妥協する一方で、比較的低コストであり、音響的に必要な天井高や庇形状を備える大掛かりな移動型反射板が導入されている。

例2. ビッグハート出雲(本News00-05号、写真3)では、固定式の正面反射板と可動式の側面反射板にバルコニー席が付属している。反射板設置時は、これら舞台側のバルコニー席が客席側のバルコニー席と連続して舞台を取り囲み、舞台と客席が一体の空間となる。また、正面反射板の前に舞台幕を下ろし、天井反射板を舞台上部に、側面反射板を床上のレールで舞台袖に収納することで、舞台と客席が仕切られたプロセニアム形式の空間にすることもできる。このように反射板に付加的な機能を持たせ、舞台・客席空間の構成を可変させる例は、米国のCerritos Center等にもみられる。昨年オープンした、いわき芸術文化交流館の中劇場(本News09-08号)においても、様々な舞台形式を実現させる手段として、額縁・客席ユニットと呼ばれる可動式の機構が採用されている。

例3. 石巻市桃生公民館(本News06-04号、写真4)では、ダンピング材を反射材とすることで、省スペースと低コストをはかった珍しい天井反射板が採用されている。この天井反射板は、ゴムシートと木板で構成されており、鉄骨下地も小さく、一般的なボード製の反射板と比べて薄く軽い構造となっている。収納時は、このシート状の反射板をバトンで舞台幕のように吊り上げるだけなので、必要な収納スペースは少なくてすむ。(服部暢彦記)










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