No.268

News 10-04(通巻268号)

News

2010年04月25日発行
施設の外観

京都市立京都堀川音楽高等学校の竣工

 日本で初めての公立の音楽高校「京都市立堀川高等学校音楽課程」が出来たのは昭和23年のことである。民間企業から寄付された5台のピアノから始まったという。戦後間もなくの混乱期で、その開校準備期間を考えれば、食べるものや着るものもままならない時期に高い志を持って設立に尽力された方々のご苦労は並大抵のことではなかったであろう。こういった伝統ある音楽専門の高等学校であり、それに呼応する音楽を愛する若者たちが門を叩いた。卒業生には、ツトムヤマシタ、小泉和裕、佐渡裕、葉加瀬太郎、など音楽界の様々な分野の第一線で活躍している音楽家が大勢いる。

施設の外観
施設の外観

「堀音」復活

 1998年、創立から50年を機に堀川高校から京都市立音楽高等学校として独立し、日本で唯一の公立音楽専門課程の高校となった。そして堀川御池の二条城の東南、かつての城巽(じょうそん)中学校の跡地に新たなキャンパスが計画され、今年3月に完成、名称も京都堀川音楽高校と変わり、OB、OGや地元の方々から「堀音(ほりおん)」として慣れ親しまれてきたその名が復活した。

 この3月26日に本校において工事関係者や地元自治区の役員の方々が多く出席され、竣工式が行われた。もともと京都は自治区で公立の学校を盛り上げて行くという意識のある土地柄だそうで、地元の協力なしに学校計画は考えられないという。本校の新築移転に際し地元の城巽自治区では積極的に移転を要望し、この地区で音楽フェスティバルを催すなどして地元を盛り上げてきた。因みに城巽とは、二条城の巽(たつみ:辰と巳の間、南東)の方角にある地域ということらしい。

音楽ホールの内観舞台側
音楽ホールの内観 舞台側
音楽ホールの内観客席側
音楽ホールの内観 客席側

 竣工式典には、OBの佐渡裕氏からビデオメッセージが送られて来ており、「施設を自慢することなく具体的な成果を出して欲しい。」と自ら具体的な成果を出して来たOBの説得力のある言葉が述べられていた。

施設概要 

 本施設整備事業の実施においてはPFI(Private Finance Initiative)手法による事業者選定が行われた。設計・監理:類設計室、建設:吉村建設工業・ミラノ工務店JV、維持管理:オリックス・ファシリティーズのグループが事業者として選ばれた。

 キャンパス内には、音楽ホール(300席)のほかに、一般教室、レッスン室、大小練習室、それにブラスバンドなどの練習や演奏会場としても利用されることを前提とした体育館(城巽アリーナ)などがある。また、敷地内には京都市立芸術大学の堀川御池ギャラリーが併設されていて、学生の作品を定期的に展示するほか、著名作家の若い頃の所蔵作品なども展示されている。

遮音計画 

 本校敷地は御池通りと堀川通りが交差する北東のほぼ角に位置するが、その交差点で御池通りが大きくクランクするため、その下を通る地下鉄東西線はカーブし、敷地の真下を通っている。計画段階の敷地内振動調査ではこの振動・騒音の施設への影響が予想されたため、この対策としてホールを防振遮音構造とした。これはその他レッスン室、練習室との遮音性能を確保する上でも必要な対策であった。この結果、地下鉄騒音は感知できない。

周辺の地図
周辺の地図

音楽ホールの室内音響計画

 音楽ホールは、演奏会はもとより学校の授業や試験、学内発表会などの音楽に利用されるほか、式典や講演会などの講堂としての利用も想定されている。また、一般市民への貸し出しも計画され、広く利用されることを前提としている。

 ホールの室内音響計画では、質の高いコンサートホールを目指し、建物の高さや寄棟式屋根の外観から来る室形状への制限の中で出来るだけ天井を高くし、室容積を多く確保した。また、ホール内の親密感や音に包まれた感じの空間印象に寄与する側方や後方からの反射音が客席内に多く到達するように側壁中段に庇を設け、軒下と壁を経由する反射音を調整し、また、エコー障害の起こらない範囲で後壁面を反射仕上げとした。一方、式典や講演会における音声の明瞭性を高めるために、舞台正面の壁一面に手動で出し入れできる吸音カーテンを設けた。さらに舞台側壁には、開閉建具式の反射/吸音調整パネルを設け、パネルを開けた状態ではパネルの背面壁にある吸音材が現れ反射音を調整するとともに残響を抑える効果を期待した。

反射/吸音調整パネル
反射/吸音調整パネル

 残響時間は満席状態で約1.8秒、舞台正面壁のカーテンを現し側壁の反射/調整パネルを開けた状態で1.5秒(いずれも500Hz)となる。この規模のホールとしてはやや長めとなったが、式典のスピーチはこのカーテンの効果もあってか明瞭に聞き取れた。

 音楽学校のホールは、日常的に様々な楽器の演奏に使われることになるため、あらゆる楽器に相応しい響きを求められるが、なかなか難しい。カーテンや反射/調整パネルなどを利用して良い状態を探り、早く響きに馴染んで頂けたら幸いである。(小野 朗記)

 京都市立堀川音楽高等学校

いわきアリオスのもう一つの顔「アリオス別館」

 本ニュースでも何度かご紹介した「いわき芸術文化交流館アリオス(ALIOS) 」(以下、アリオス)は、来月、グランドオープンから1周年を迎える。大ホール、中・小劇場など新築のアリオス本館に目を奪われがちであるが、アリオス建設のPFI事業には、旧いわき市音楽館、いわき市文化センター大ホールの2施設の改修設計・監理が含まれている。この内、旧音楽館はいわき市に本社を構える加地和組によって施工され、アリオス別館として、アリオス本館(一期工事)と共に2年前の第一次オープンで開館した。また、文化センター大ホールもこの3月に改修工事を終え、5月にリニューアルオープンを迎える。今号では、開館2周年を迎えたアリオス別館(旧音楽館)にスポットをあててご紹介したい。

旧音楽館と改修内容 

 旧音楽館は、昭和63年に音楽練習用に建設された施設である。いわき市は吹奏楽を始めとして音楽活動の盛んな場所であり、旧音楽館も開館以来約20年に亘って、市民演奏家、中学・高等学校の吹奏楽部等の練習や発表の場として使用されてきた。この旧音楽館には、練習だけでなく発表会も行える2層吹抜けの大練習室-1を始めとして、大練習室-2、中練習室2室、小練習室7室の大小計11の練習室があった。当初から各室間の遮音性能を考慮して設計された施設で、練習室の多くにグラスウール浮き床+内装防振という遮音構造が採用されていた。 改修にあたっては、大練習室-1の内装を全面改修して音楽専用のコンサートホール「音楽小ホール」とした。また、大練習室-2については、音楽練習に限定せずにバレエ、ダンスや演劇の稽古も想定した「稽古場」として改修し、階下の練習室に対する床衝撃音の遮断性能を上げるために防振ゴム浮き床を採用した。また、この室は可動遮音間仕切り壁で2室に仕切る形式とし、間仕切り壁収納時には約200uの広い空間となる。残りの室についても稽古場や音楽用の中・小練習室として、室によって程度は異なるが内装改修(または補修)、防音扉の取り替え等の改修を行った。

旧音楽館(改修前)の大練習室-1
旧音楽館(改修前)の大練習室-1
改修後の音楽小ホール舞台側
改修後の音楽小ホール 舞台側
改修後の音楽小ホール客席側
改修後の音楽小ホール 客席側

音楽小ホール

 音楽小ホールは、旧大練習室-1の既存躯体(内法は幅約13.5m、奥行21m、高さ約8.6m)のみを残して内部に新たに造られた、可動椅子200席のコンサートホールである。限られたスペースではあるが、周辺室との遮音性能確保のために防振遮音構造を再構築し、舞台裏には既存施設には無かった楽屋や楽屋廊下を設けるなど、ホールとしての使い勝手にも配慮している。

 内装については、小規模のコンサート空間であることから十分な拡散が得られるように配慮した。壁面は大きくなだらかな曲面で構成して、その表面に凸曲面のランダムなリブを配置し、さらにその大きな曲面の間に吸音面を設けた。天井は限られた高さの中で、設備を納めながらも出来る限り高さを確保するよう、緩やかな山形に傾斜した遮音天井を設け、その下面に6つの緩やかな曲面天井を設置する形状とした。内装の緩やかな曲面と可動椅子の赤い布地によって、華やかな印象でありながらも親しみやすいホールになっている。

アリオス別館の稼働率

 この施設は改修前の旧音楽館の時代から多くの市民に利用されてきたが、改修後はさらに盛んに利用されているそうである。このPFI事業に関わってこられたいわき市の紺野氏にこのアリオス別館の利用状況についてお話を伺った。

 音楽小ホールの稼働率は66%(2009年)、中には80%を超える月もある。音楽用中・小練習室については、改修前の稼働率60〜80%程度(2006年)に対して、改修後には85〜100%程度(2009年)に上がっており、特に、小さいサイズ(30u)の室についてはほぼ100%である。 ”アリオス本館のオープンに触発されたと思われる高齢者を主とした新たな利用者層による稼働率の押し上げもみられる。(紺野氏)” 一方、稽古場については、音楽という枠を外してダンスや演劇用にも使用可能にした新しい運営が定着しつつある状態で、やや稼働率が低めでということであるが、それでもほとんどの室で70〜80%(2009年)という状況である。このアリオス別館の各室は、改修後も利用料金が低価格に抑えられており、約30uの小練習室であれば3時間使用しても数百円(設備費を除く)という羨ましさである。この気軽に利用できる料金体系も稼働率の高さの理由の一つであろう。

 ”開館後、2年を経たアリオス本館では、公演の有無にかかわらず多くの市民の姿を目にすることが出来る。その多くは別館利用者が利用時間以外の時間帯をアリオスで思い思いに過ごしている様子である。(紺野氏)” アリオスは公演を鑑賞する施設としてだけでなく、市民が活発に芸術活動を行い、また、交流を深める場となっているようだ。そこに、このアリオス別館が担っている役割は大きい。(箱崎文子記)

 いわき芸術文化交流館アリオス

“台中メトロポリタンオペラハウス”着工

 台湾において2005年の国際設計競技で選定された伊東豊雄建築設計事務所設計の「台中メトロポリタンオペラハウス」が2009年12月3日にようやく着工した。本ニュース09-01号(通巻253号)でもお知らせしたように、敷地の土工事が進む中、早期の着工が待たれていたが、地元台中市の麗明営造により工事が開始することになった。工事完了は2013年冬の予定である。計画地は台中市のほぼ中心、高層マンションに囲まれた長方形の敷地である。その中央部に、2,000席のオペラを主目的としたグランドシアター、800席の演劇主目的のプレイハウス、200席規模の実験劇場等からなる建物が配置されている。グランドシアターについては、1/10縮尺音響模型による音響実験も行っている。これから工事が進む中、どのような姿が現れてくるのか、楽しみである。(福地智子記)

“The Taichung Metropolitan Opera House is built by the Taichung City Government,
Republic of China (Taiwan).”
外観図
外観
グランドシアター
グランドシアター