永田音響設計News 02-12号(通巻180号)
発行:2002年12月25日






都立大跡地に“めぐろ区民キャンパス”完成、
敷地内に“めぐろパーシモンホール”がオープン

 9月20日、目黒区在住の若杉弘氏の指揮、園田高弘氏のピアノ演奏によってめぐろパーシモンホールがオープンした。

■めぐろ区民キャンパスの概要
外観(右側がめぐろパーシモンホール)
 東急電鉄東横線の都立大学駅から柿の木坂を上っていくと、駅前から続く密集した商店街が急に開けて芝生の広場が目に飛び込んでくる。今春オープンした「めぐろ区民キャンパス」である。この敷地は平成3年までは都立大学のキャンパスだった場所で、その跡地が東京都と目黒区によって整備され、広場を囲むように目黒区の施設(めぐろパーシモンホール、八雲体育館、八雲図書館、セレモニー目黒(葬祭場)、心身障害者センターあいアイ館)と都営住宅が完成した。全体の設計・監理は日本設計である。永田音響設計は、めぐろパーシモンホールの音響設計、監理および工事完了後の音響検査・測定を担当した。

■めぐろパーシモンホールの概要
 めぐろパーシモンホールは、1200席の大ホール、200席の小ホールおよび5室の練習室・会議室からなる複合施設である。命吊の由来はもちろん柿の木坂の“柿(persimmon)”である。広場から見て右側にホール、斜め左側に体育館+図書館が配置されていて、両者はエントランス・プラザ空間を挟むような形でつながっている。プラザの1階が大ホール入り口に、地下1階が小ホール入り口になっており、小ホールは大ホールホワイエの直下に位置している。

■大ホール
大ホール 舞台
 客席天井の凹凸面、客席側壁下部のリブ、可動プロセニアム、客席側部の天井面に設けられた残響可変装置、吊り下げ型の舞台音響反射板が音響面での大きな特徴である。

 客席天井は、人工衛星の展開式太陽電池パネルに採用された“ミウラ折り”をアレンジした1500mm×750mm×深さ300mmの山形が連続した凹凸形状である。これに関しては、設計者の「壁はスッキリさせたい」という要望に対する音響からの「それならば天井に拡散面を設けてほしい」という要望に設計者が答えてくれたものである。

 客席下部のリブはやはり拡散を意図したもので、リブ特有のエコーを防ぐ目的でリブの奥行きをランダムにしている。

 可動プロセニアムは、舞台と客席が一体となるような形状が好ましいクラシックコンサートとプロセニアムの形成が必要なその他の催し物の両立を可能にするために設けた。大ホールの使用目的が音楽を主目的とする多目的ホールという使用条件を満たす手段として重要な役割を果たす。コンピュータシミュレーションによって、舞台音響反射板設置時のプロセニアム高さは14.5mに設定した。

 残響可変装置も同様に多目的利用の枠を広げる手段として計画した。客席後壁の両隅に収紊された10mm厚のグラスウールパネルが約50cm間隔で前方に引き出される形で設置される。設置位置が舞台から遠いことや量が少ないことから可変効果の予測が難しかったが、 測定の結果、約0.1秒の変化が認められ、聴感的にも違いを確認できた。

 舞台音響反射板としては、舞台床上のレールを走行するタイプではなく吊り下げ型の走行式が採用された。これはレール収紊部分の蓋板が催し物によっては支障を来す場合があるためである。舞台反射板内部には八雲の地吊に因んだ八つの浮き雲が取り付けられているが、これらは演目に合わせて取り外しが可能となっており、正面反射板も編成の大小で前後するようになっている。

 この他に客席天井や側壁の舞台照明用の開口部はすべて開閉式になっている。残響時間(空席時、500Hz)は、舞台音響反射板設置時(照明用開口:閉): 2.0秒、舞台幕設置時(照明用開口:開、残響可変装置:設置):1.3秒である。

■小ホール
 大ホールとの同時使用を考慮して小ホールは防振ゴムによる浮き構造とした。大小ホール間の遮音性能は80dB以上(500Hz)が確保されている。

 移動式観覧席と客席迫りにより、平土間とホール形式にできるように計画されている。さらに舞台側壁には回転式の反射板が設置されていて、閉じた状態では音楽ホールに、開けた状態では幕形式のホールに変換が可能である。平行となる側壁はフラッターエコー防止と拡散を意図してランダムなリブと規則正しいリブの繰り返しとした。天井は遮音層を仕上げ面として、その下部に円弧状の反射板を吊り下げ、音楽ホールとしてできるだけの天井高を確保するように計画した。

 平土間で使用する各種練習時の響きがあまり長くならないように吸音材を配置した結果、残響時間(空席時、500Hz)は、平土間時1.4秒、椅子設置時(舞台側壁:閉) 0.9秒である。

■オープニングコンサートは来年3月まで随時行われており、オーケストラ、オペラ、バレエ、演劇など多彩な演目が予定されている。なおオープニングコンサートを飾って頂いた若杉氏はホールの近くにお住まいで、その縁からかホールの特別顧問に就任されている。(福地智子 記)

連絡先:めぐろパーシモンホール TEL03-5701-2924         


改修と音響設計《6》 教会の音響改修

 シリーズ6回目となる今号では、教会の音響改修例をいくつか紹介する。現在我々が取り組んでいる教会の改修の音響上の課題は、パイプオルガンのための響きの改善と、説教の明瞭度の改善である。日本の教会は、ヨーロッパの天井の高い石造りの教会と異なり、天井が低く、内装もボード貼りであることが多い。そのため、全体的に残響時間が短く、さらにボードの板振動によりオルガンにとって重要な低音の響きが上足することとなる。また、説教の明瞭度を確保するために、天井に岩綿吸音板等を使用して響きを抑えてある教会もあり、これはオルガンにとっては好ましくない。

 一方、説教の明瞭度の低さは、主に拡声設備自体が上適切であることによる。教会によっては、外部との遮音性能の上足、空調設備騒音等により、室内の騒音レベルが高いことも原因となっている。

■松山教会の改修(改修:1995年)
<パイプオルガン新設に伴う残響時間の延伸、拡声設備の改善>
 この教会はわが国の教会としては天井が高く、改修前の残響時間は中音域で約1.4秒という値であったが、よりオルガンに適した響きを得たいというオルガンビルダーの要望により改修が行われた。改修前の調査では、内装の振動しやすい箇所を検出するために礼拝堂にスーパーウーファーを持ち込んで内装の振動特性を測定し、その結果、オルガンバルコニー後部のボード壁の振動が大きいことが明らかになった。改修では、このボード壁の撤去および天井の吸音スリットの閉塞を行った。改修前後の残響時間の比較を図-1に示す。全体的に響きが長く改善されていることがわかる。

図-1 松山教会の残響時間


■立教女学院聖マーガレット礼拝堂の改修(改修:1996年)
<パイプオルガン更新にともなう低音の残響時間の延伸>
 創建当時から設置されていたパイプオルガンの老朽化によるオルガン更新に伴い、オルガンビルダーからの要望により、残響時間延伸のための改修が行われた。この礼拝堂は、壁がRC造、小屋組・床が木造で、祭壇周辺の壁は木パネルで構成されている。改修前に各内装部位の振動特性・残響時間を調査した結果、この壁の木パネルおよび床板の板振動により低音が吸収され、中音域より低音域の残響時間が短い状態であった。改修は祭壇床面および祭壇周辺の壁を対象とし、それらの板振動を抑えるために、床は繊維強化石膏ボード、壁は石膏ボードを積層で裏打ちした。改修前後の残響時間の比較を図-2に示す。低音域で響きが長く改善されていることがわかる。(参考:本ニュース 137号(1999.5) 立教女学院聖マーガレット礼拝堂の音響改修)

図-2 聖マーガレット礼拝堂の残響時間


■中渋谷教会の改修(改修:2000年)
<パイプオルガン新設に伴う残響時間の延伸、換気設備新設>
 この教会ではパイプオルガンの新設に伴い、残響時間を延伸するための改修が行われた。改修前、天井・後壁上部には岩綿吸音板が貼られ、会衆席床には全面カーペットが敷いてあり、低音域に比べ中高音域の残響時間が短い状態であった。改修では、天井等の岩綿吸音板の上から繊維強化石膏ボードを貼り、通路部分のカーペットを撤去して板貼りとした。改修前後の残響時間の比較を図-3に示す。中高音域で響きが長く改善されていることがわかる。また、本教会には換気設備はなく、礼拝中に気分が悪くなる人もいるという状況であったため、換気設備を新設した。空調設備・拡声設備の改善は今後の課題となっている。

図-3 中渋谷教会の残響時間


■恵泉女学園大学チャペル(改修:2002年)
<拡声の明瞭度の確保、パイプオルガン新設に伴う低音の残響時間の延伸>
 このチャペルは2000年末に完成した新しい建物である。響きが長くパイプオルガンには適しているが、礼拝時のスピーチの明瞭度が悪いことが問題となっている、ということで相談を受けた。改修前の調査では、中音域の残響時間は約4秒と長いが、祭壇背面、会衆席側壁、オルガンバルコニー壁面にボード貼りが多用されており、ボードの板振動により低音域ではかなり響きが短い状態であった。改修では、オルガンバルコニー背面壁のボードを撤去してRCの壁面を露出させ、ボードを撤去することで露出したダクトの補強を行った。また、スピーチの明瞭度を改善するためには、中高音域の残響時間を抑える必要があったため、会衆席に座席クッションを導入した。拡声設備の調査にあたっては、スピーカメーカー2社に協力を依頼し、既設のスピーカとの比較試聴を行って機種を選定した。(参考:本ニュース 176号(2002.8) 改修と音響設計(4)電気音響設備の改修 図-2)響きの長い空間であるが、適切な特性を持ったスピーカを適切な位置に設置し、調整を行うことによって、明瞭度は大幅に改善された。

■その他の改修例
・旧イグナチオ教会…説教の明瞭度を得るための祭壇内装の吸音処理とスピーカシステムの改善

・東中野教会…高齢者の聴力低下を考慮した明瞭度の改善(参考:本ニュース69号(1993.9) 東中野教会の音響設備の改善)

・本郷弓町教会礼拝堂…パイプオルガンのための残響時間の延伸(天井の岩綿吸音板の撤去)と拡声設備の改修

・聖路加国際病院礼拝堂…パイプオルガンのための残響時間の延伸(内装に使用されている多孔質の抗火石の表面に吸音を抑えるための塗料を塗布) なお、オルガンのための響きの改善については、本ニュースの 117号(1997.9) 、および123号(1998.3) でも取り上げている。 (箱崎文子 記)


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永田音響設計News 02-12号(通巻180号)発行:2002年12月25日

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