News 13-06号(通巻306号)
発行:2013年6月25日
新生 歌舞伎座 誕生!
外観(歌舞伎座と歌舞伎座タワー)
2010年4月30日の閉場式以来、建て替え工事が行われていた歌舞伎座が、約3年ぶりに東銀座に戻ってきた。新開場の初日は2013年4月2日、第五期歌舞伎座の歴史が始まった。設計は三菱地所設計+隈研吾建築都市設計事務所、施工は清水建設で、永田音響設計は設計段階から竣工時までの音響設計を担当した。
第五期歌舞伎座は、第四期歌舞伎座が解体された後に、その敷地に新たに高層ビル(歌舞伎座タワー)を伴って完成した。外観はもとより内部のデザインも、第四期の踏襲を第一に設計や施工が行われた。とはいえ、第四期歌舞伎座でも指摘されていた客席からの舞台の見えにくさや座席の狭さについては、床勾配を急にしたり、座席の幅や前後間隔を多少広くしたりと以前よりも快適に観劇ができるように改善されている。また、舞台上では廻り舞台の平面的な寸法は変わっていないが、松・竹・梅の迫りの他に大迫りが新たに設けられ、さらに舞台下部においても中奈落の他に大奈落ができ、以前よりスムースな舞台転換が可能となっている。舞台照明に関しても、天井のデザインのイメージを損なわないような箇所にシーリングスポット室が新しく設けられるなど、劇場としての機能性は以前とは比べものにならない程良くなっている。
劇場内 (提供:松竹)
吹寄竿縁天井に設置された音響反射板
(提供:松竹)
業平壁
◆室内音響設計 (第四期歌舞伎座の響きの踏襲)
第四期歌舞伎座では、役者さんの声が舞台から遠い3階席でもよく聞こえ、鳴物の音も客席に素直に届くと言われ、音響が素晴らしいという評価を受けていた。建築設計と同様に、音響計画においても、これらの良い部分を引き継ぐことがまずは大命題であった。
第五期歌舞伎座の平面形状は第四期とほぼ変わらない。しかし、断面形状は前述の通り床勾配が多少急になったために、それに連動して天井の傾きも多少急になった。天井勾配が変わることによって音の響きに及ぼす天井からの反射音の到達状況が変わるため、設計段階にコンピュータ・シミュレーションの手法を用いて様々な天井形状を検討した。最終的には意匠の継承という点から、第四期の
第四期の客席壁は、大小の菱形パターンが重層された
第四期歌舞伎座では、舞台下手側の
◆騒音防止設計 (静けさの実現)
歌舞伎座は、南側は晴海通りに西側は昭和通りに面しており、それぞれの通りの下には地下鉄日比谷線、浅草線が敷設されている。第四期解体前に行った音響調査において劇場内で地下鉄走行時の固体音が多少聞こえたため、第五期においては次のような対策を実施した。①地下鉄に面する側の建物地中外壁に防振マット50mmを設置、②舞台床、客席1階席床の防振ゴムによる防振支持、③舞台壁、客席1階壁の防振遮音壁設置などである。とくに、舞台床に関しては、演技への支障がないことを第一に考え、足触りや柔らかさを第四期と変わらないようにするために、細心の注意を払いながら施工方法を検討し防振ゴムを選定した。
第五期歌舞伎座では、観劇にいらした方以外にも歌舞伎の魅力が伝わるような仕掛けがされた諸室がいくつか配置されている。舞台上部には歌舞伎に因んだテーマでの展示が行われる歌舞伎座ギャラリーや木挽町ホールが、客席上部には屋上庭園が、また下部には日比谷線東銀座駅に直結する木挽町広場が配置されている。また、舞台上部に立つ高層のオフィスビルとの併設ということもあり、地下には大型の駐車場が設けられ、そこへの車路が劇場を取り巻くように配置されている。このように劇場周辺に様々な室が配置されているため、これらの室からの騒音・振動の伝搬を防止するために、屋上庭園や歌舞伎座ギャラリーには歩行音防止のための浮き床を、車路や駐車場にも浮き床を設け、木挽町ホールには高い遮音性能が得られる防振遮音構造を採用した。第四期歌舞伎座では、扉がきちんと閉まらないために劇場内で道路交通騒音が多少聞こえたり、天井裏でも隙間などから屋外の音が聞こえたりするなど、運用には支障なかったが遮音はそれほど良くなかった。しかし、劇場客席の入口扉も正面入口側は2重とし、第五期では静かな空間が得られている。
外観形状や色、屋根形状、瓦、大間のカーペットなどが第四期を踏襲して計画された。しかし、素材や施工方法については新たな挑戦が行われている。構造もコンクリート造が鉄骨造になっている。劇場内も前述するように、形状や各部のデザインは見た目はほとんど変わっていないが、材料や施工方法は全く違っている。客席椅子も形状や布地が変わっている。舞台や花道の基本的な寸法は第四期を踏襲しているが、舞台袖は広くなり、奈落も深くなっている。このように同じようで実は全く違っている空間であるにも関わらず、役者さんやお客様たちは懐かしい感じがすると言って下さる。幸いなことに、音についても第四期歌舞伎座と変わらないと多くの方々がおっしゃってくださっている。音響設計に携わったものとしては、何とも嬉しい限りである。(福地智子記)
歌舞伎座ホームページ: http://www.shochiku.co.jp/play/kabukiza/
New Roads School -The HAEVのオープン -
ホールの内観(バルコニー席から)
ホールの内観(1階客席上手側から)
ホールの平面形状(2階席)
ホールの平面形状(1階席)
ホールの縦断面形状
New Roads Schoolは、米国カリフォルニア州南部のサンタモニカ市を中心としてその周辺にもいくつかのキャンパスを持つ小学生から高校生までを受け入れている学校で、1995年に設立された。公的な教育サービスを受けていない子どもたちをサポートするプログラムに力を入れるなど、その活動理念は大変ユニークである。
この学校と財団、および地域内の教育や芸術分野の非営利団体が使用することのできる施設として、このたびThe Herb Alpert Educational Village (以下HAEV)と名付けられた新しい建物がサンタモニカキャンパス内に完成した。建築設計はJohn Berry Architectsで、永田音響設計はホールを中心に室内音響、遮音および騒音防止に関する一連の音響設計・監理を担当した。総事業費は約2,400万ドルである。
この施設の建設のために多額の資金を提供したHerb Alpert氏は、著名なトランペット奏者および音楽プロデューサーであると同時に、芸術と教育に関連する慈善事業の推進にも熱心な方である。日本では、有名なラジオ深夜放送のテーマ曲「ビタースウィート・サンバ」の作曲者としても良く知られている。HAEVの建物内には、344席の多目的ホールとその周辺諸室の他に、会議スペース、ライブラリーおよびケータリングサービスの設備を含む200 m²弱(約2,000平方フィート)のコミュニティスペースが配置されている。Ann and Jerry Moss Theaterと名付けられたこの多目的ホールは、バルコニー席のあるプロセニアム型の劇場で、固定の張り出し舞台を持っている。やや幅広で奥行きの短い客席配置にすることにより、バルコニー席を含め、どの席からも舞台が近く、見え易くなっていることがひとつの特長である。
劇場スタイルにおける演劇的な使い方だけではなく、室内楽規模のクラシック音楽のコンサートにも十分に対応できるように当初から計画されており、そのため、上下にスライディングする大型のドアでプロセニアム開口部を閉じて、張り出し舞台の上の演奏者と観客とがコンパクトに一体化するようなコンサート形式に設定することができるようになっている。天井をできる限り高く取った結果、舞台上での高さが約11m (36 フィート)となった。また、高音域の拡散を意図して、客席内の壁には数種類の細かな凹凸形状を配置している。天井については、重要な堅い反射面の下部に、音響的に透過なグリッドが設置されてその上を自由に歩けるようになっており、バトンに吊された吸音用のカーテンの量を催し物に応じて簡単に調節できるなど、使い勝手の良さが大きな特長となっている。
3月24日にはオープニングイベントとしてHerb Alpert氏のコンサートが開催され、関係者一同、素晴らしい演奏を楽しむことができた。その後に開催されたイベントはまだ数少ないが、今後は教育の場、あるいは舞台芸術の発表の場所として地域住民に愛されることを願ってやまない。このHAEVは弊社ロサンゼルス事務所から車でほんの数分の場所にある。引き続きその活動を見守って行きたい。(菰田基生記)
URL: https://www.newroads.org/haev/mosstheater
永田 穂特別顧問 渡邉曉雄音楽基金 特別賞受賞
この度、永田 穂特別顧問が2013年度の渡邉曉雄 音楽基金の特別賞を受賞致しました。「オーケストラには、良い音響のコンサートホールの存在は欠かせません」と、ホールの音響設計の功績を評価して頂きました。永田特別顧問はもとより、弊社にとりましても栄誉なことです。
ここに、あらためまして皆様方の日頃のご支援、ご指導に心より感謝申し上げます。
(株)永田音響設計
〒113-0033 東京都文京区本郷 2-35-10 本郷瀬川ビル 3F
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