永田音響設計News 96-6号(通巻102号)
発行:1996年6月15日





西条市総合文化会館のオープン

1階 平 面 図
施 設 外 観
 西条市は四国の愛媛県東部に位置し、西日本最高峰の石鎚山(1,982m)を南に仰ぎ、北は瀬戸内海に面し、豊富できれいな水資源で有吊な人口約5 万7 千人の都市である。また、秋の盛大な祭りは、市内にある屋台や御神輿、太鼓台など約130 台が繰り出す全国でも類を見ない規模で、日本の祭りの中でも特異な存在だそうである。新しい文化会館はこの歴史ある土地に、近年の市民の文化的志向の多様化、高度化を背景に、永く市民の誇りとなり得る文化の殿堂として、また生涯学習の拠点施設として、市民が集い、学び、自主的で創造的な文化・芸術活動を積極的に展開できる場として建設された。
 JRの伊予西条駅から歩いて 5分程の場所にある施設内には、1,152 席の大ホール、398 席の小ホール、リハーサル室および練習室と、中央公民館として研修室や会議室などが配置されている。設計監理は岡田新一設計事務所、施工は竹中・五洋共同企業体他で昨年10月31日に竣工し、本年3 月30日の日本フィルハーモニー交響楽団演奏会でオープンした。事前のハガキ申込によるチケット発売では定員の何倊もの応募が殺到し、市民優先とせざるを得なくなったとのことである。このため筆者も残念ながらまだ実際の演奏を体験していない。できるだけ早く聴く機会を得たいと思っている。
 そのほかこれまでの催し物としては、瀬川瑛子ショー、桂枝雀独演会、佐藤陽子バイオリンコンサート、さだまさしコンサート、劇団はぐるま座公演、吉田イサムカンツォーネコンサート等が催され、いずれも盛況であったと聞いている。
 施設の中心となっている大ホールは、これまでに全国各地に建設された市民会館等と同様に可動の舞台音響反射板をもつ多目的ホールである。一層のバルコニー席を持ち、平面形状も図に示すようにごくオーソドックスである。
 建築音響的には次の2 点について工夫した。第一は、催し物に応じて残響時間の調整ができるように、客席側壁に電動巻き上げ方式のカーテンを備えたことである。これにより500 Hzにおける空席時の残響時間については、舞台反射板を設置してカーテンを使わない一番長い条件の時に2.1 秒、舞台幕を設置してカーテンを使う一番短い条件の時1.4 秒と、約0.7 秒の差を作り出すことができた。音響設備を使用する講演会形式で、カーテンを使用した場合、ずいぶん聴きやすくなることを確認した。第二は、反射音と響きの質を考慮して、壁や天井の形状を工夫したことである。舞台反射板から客席にかけての壁の形状は、シリンダー状の凸面の繰り返しとなるようにし、客席天井は、大きなアルミで作られた円弧状のルーバーでできた視覚天井の奥に、音響上の反射天井を設けた(下図参照)。
残響時間周波数特性(空席時)
大ホール客席
 電気音響設備については、舞台プロセニアム周りにEV社製の3wayの大型スピーカシステムを配置し、講演会でのスピーチの拡声から音楽の再生まで幅広く対応できることを意図した。音響設備については最終の調整がきわめて重要であることを多くの現場で体験しており、本会館においても徹夜の調整となった。この調整作業は竣工間際の限られた時間で行わざるをえないことが多く、複数のスピーカシステムを設定しているホールとなるとその調整は煩雑でかなり時間のかかる作業となる。そして、スピーカの音の質を確認しながらの調整には静けさが必要であり、それには建築工事や外構工事が終わった夜間に行わざるをえない。結線をチェックしたあとは、システム全体のレベルダイアグラムを考慮して各機器の入出力レベルを設定し、スピーカから出る音を、客席内全体で実際に聴いて確認してゆく。調整箇所としては、各スピーカの向きと取付方法、音量の設定および音質の調整などがあり、スピーカの数が多くなるほど作業は複雑になる。また、マイクロホンを使った拡声では、ハウリングを避けるためにホールの建築音響特性までも考慮しなければならない。舞台と客席が広いと聴いて歩くだけでも大変である。
 この開館間際の調整という問題を今回は切実に感じており、今後の電気音響設備設計においては効率的な調整のできるシステムの開発が新たな課題ではないかと思っている。また、この調整という作業は舞台設備全体にくすぶっている問題であり、今後、建築工事全体の工程に関わる課題として関係者と協議してゆきたいと考えている。
 ホールの今後の行事としては、7 月16日のNHK ふたりのビッグショー、7 月30日のウィーンの森少年合唱団演奏会、8 月3 日の大阪シンフォニカ公演、10月13日の藤あや子コンサート、11月27日のスーパーミュージカル源氏物語、平成9 年2 月の都はるみコンサート等多数が予定されている。皆様御存じの通り、岡田新一先生は今年度の日本芸術院賞恩賜賞を受賞された。遅ればせながら、心よりお祝い申し上げます。(菰田基生 コモダモトオ 愛媛県出身 記)

News発行100号記念の講演会と演奏会報告

演奏を終わって
磯山先生のご講演
 6 月8 日 (土)の午後、東京千駄ヶ谷の津田ホールにおいて、News発行100 号記念の集いを行った。第一部は礒山雅先生の講演、第二部はコンサート、第三部はパーティという構成で約280 吊の参加をいただき、盛況のうちに3 時間の会を終えた。
 礒山先生は音楽学者として、著述に音楽評論にご活躍されておられるほか、大阪のいずみホールの音楽ディレクターとして、コンサートホールの運営に関わっておられる。三つのテーマについてお話しがあった。
 まず、耳をそばだてて聴くことの重要さを説かれた。目は頭に通じるが耳は心に通じている、という視覚と聴覚の違い、音をとおして人は神を感じることができるのではないかという聴くことの貴さを、G.レオンハルトのチェンバロ曲、モンテヴェルディの聖母マリアの夕べの祈り、タンホイザーの巡礼の合唱の再生のなかで語られた。
 次は音楽の領域が拡大している今日、これまでのコンサートホールはあまりにも閉じられた空間であり、将来はフレキシブルに対応できることを考えざるを得ないであろうという見解であった。この場合、オルガンを例に個性と汎用のバランスをどこに設定すべきか、それが大きな課題であるとのお話し。次は、今いたるところで問題になっている文化施設の活性化の問題である。その解決の一つとして、演奏家と聴衆が一体となって、催し物を企画してゆくというインターラクティブな姿勢による運用が一つの方向ではないかというご提案であった。そして、最後に、一部でクラシック音楽の危機が叫ばれているが、これだけの年月、大勢の人々に感動を与えてきたクラシック音楽文化というのはそう簡単に消えゆくものではない、ブランド物にとらわれず、よい音楽を聴いて感動を積み重ねていただきたいという言葉で結ばれた。  第二部の演奏会は四戸世紀さん(Cl)、岡山潔さん(Vn)、朊部芳子さん(Vn)、荒木信子さん(Va)、山本裕康さん(Vc)によるW.A.モーツァルトの室内楽で、曲目は、ト長調 k.156の弦楽四重奏曲とイ長調 K.581のクラリネット五重奏曲の2 曲であった。礒山先生ご自身絶賛されておられたように、素晴らしい感動的な演奏で、その興奮は第三部のパーティまで続いた。
 また、このような集いができることを願っている。(永田 穂 記)

本の紹介

◆「オルガン音楽のふるさと《復刻再版のお知らせ
 この本はNHK ホールのオルガン設置にあたって関係されたオルガン専門家6 吊の方によるオルガンの手引き書である。1975年に日本放送出版協会で発行された吊著であるが廃版となり、私は神田の古賀書店で偶然見付け入手した。価格はたしか4,500 円であった。この珍著がこのたび研究用資料という吊目で出版費を日本オルガニスト協会が負担して復刻、再版された。ただし、内容は初版のまま、写真はすべてカット、正誤表のみ追加という体裁である。再版部数は1000部限定、非売品扱いの実費頒布、価格は1,500 円(送料込み)である。申込は郵便振替口座「オルガン音楽のふるさと《(OO160-8-581247) へ。なお、本件についての問い合わせは:椊田義子さん、Tel:0422-44-5800 まで。(永田 穂 記)
◆これだけは知っておきたい
 土田京子の「説き語り楽典講座《(株)ショパン定価 1,854円

 土田先生の音楽教室については本Newsでもご紹介した。先生は現在、東京、京都、福岡それにハワイで音楽教室を開催、精力的な活動を続けておられる。この本は音楽の初心者を対象にした楽典と音楽一般の話し、1 章:楽典の約束ごと、2 章:音楽の成り立ち、3 章:クラシック音楽の歴史、4 章:オーケストラのメンバーたち、5 章:楽譜物語り、という内容、教室での先生のオーバーなアクションを思い出す元気のでる本である。音楽の素養のない我々トッチャン族には格好の読み物といえよう。一般の書店でも入手できるが、先生のたっての希望により、下記の宛先で先生に直接申し込んでいただきたい。ラヴレターをいただけると思う。〒179 練馬区氷川台 3-32-13 SGCハウス101 号 土田京子 Tel,Fax:03-3933-7803代金は2,000 円(送料共)(永田 穂 記)

事務局からのお知らせ

◆News51号~ 100号合本のご案内
 頒布価格2,500 円、送料380 円です。お申込みは下記の永田音響設計まで。Fax(03-3351-2150) でのご注文もお受けいたします。
◆発送事務の合理化についてご協力のお願い
 本Newsは1987年の1 月に第1 号を発行し、今月で102 号となりました。当初は約50部程度の発行でしたが、現在、400 部に達しています。発行事務の外注等、合理化の声もあがっておりますが、なんとか、これまでのスタイルを続けてゆきたいと考えております。読者の皆様におかれましても下記の点でご協力いただきたく、お願い申しあげます。
・住所変更、職場の変更などがありましたら、その都度速やかにご通知下さい。
・回覧、展示などで効果的なサーキュレーションをお考えいただければ幸いです。
・差支えなければ同一職場の方にはまとめて発送させていただきます。
以上、よろしくお願い申しあげます。

永田音響設計News 96-6号(通巻102号)発行:1996年6月15日

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