永田音響設計News 96-5号(通巻101号)
発行:1996年5月15日





黒部市国際文化センター「コラーレ《の開館

オープニング・プログラム
 黒部市国際文化センター“コラーレ(COLARE) ”は芸術文化の交流を通じ、国際理解を深める環境作りのための施設として計画、建設され、昨年11月にオープンした。この施設は建設計画から運営計画までが地域住民、文化人の積極的な参加によって行われるという新しいタイプの市民参加型の施設である。すなわち、劇場コンサルタントのシアターワークショップの協力のもと、設計・施工の各段階から構想プログラムの見直し・検討、プレイベント、ワークショップなどが市民の文化活動の形となって次々と行われてきた。一例をあげると“コラーレ倶楽部”があるが、これは開館の1 年以上も前に発足した市民自主運営の組織である。
 オープニングのプログラムもまず地域住民が施設を<PART 1:知ること>、<PART 2:使ってみること>から始まった。<PART 3:見てみる、聴いてみる>はこれまでの施設のオープニング・プログラムにあたる様々なジャンルの優れたアーティストによる公演提供=鑑賞会である。現在、オープニング・プログラムPART 3の“花のうたげ”が開催中である。(*COLARE:Collaboration of Local Art Resources=地域文化の創造発信の場、地域の言葉で“来られ”とは参加の呼びかけをいう)
 本センターは黒部大峡谷、黒四ダムでお馴染みの黒部川の下流、JR黒部駅より車で 7分の所に位置し、南東に立山、白馬連峰が一望できる。エントランスを挟んで円筒のホールゾーン、展示、図書、創作工房、茶室等からなる学習ゾーン、それに能舞台ゾーンの3 ブロックから構成されている。ホールゾーンには、886 席のカーターホール (アメリカ合衆国元大統領:Jimmy Carterに因んだ吊称) 、両サイドにマルチビジョン・大型ビデオスクリーンを持つ約200 席の平土間形式のマルチホール、およびリハーサル室が配置されている。設計・監理は、新居千秋都市建築設計、施工は、フジタ・桜井・長谷川共同企業体ほかである。



同平面形
カーターホールの内部
外  観
 ホールゾーンの中心となるカーターホールは、プロセニアム形式のホールであるが、音楽を主体とする多機能ホールとして計画された。設計者の強い意図から、親密感、雰囲気ある劇場空間として、円形の平面形状を基本として設計が進められた。この視覚的に円い空間の中で円形形状に起因する音響障害を避けるための対策として、音響的に透明な視覚壁を設け、背後の反射壁を多面形として矩形に近付ける、凸曲面を付加する、吸音面を設ける、などの対策が考えられる。ここでは、音響障害を除去するだけではなく、より積極的に有効な初期反射音を確保できるように、凹曲面に凸曲面を組合せた客席配分とする平面形状をコンピューターシミュレーションによって検討し、提案した。すなわち、幅18m 前後の主階席を挟むかたちで、凸曲面のサイドバルコニーを設け、さらに、断面的には2 層のバルコニー席を加え、小規模ホールとしても使用できるよう考慮した。また、可動反射板を設置したとき、舞台空間と客席空間が一体となるような平断面形状を採用した。この円形の基本形はいま外観にそのイメージをとどめているが、内部は図のようにダイナミックな劇場空間となっている。プロセニアム部の高さは14m、室容積10,400m3である。残響時間は舞台反射板設置、満席時1.8 秒前後(500Hz) を目標とした。
残響時間周波数特性(空席時)
 以上のようなクラシックコンサートへの対応によって、音響反射板設置時には専用のコンサートホールに比肩できる音響空間が実現されている。さらに、この種の文化施設で考えられるクラシック以外の各種の催し物への対応をも重視し、カーテンによる残響可変と電気音響設備の充実をはかった。残響可変用のカーテンを客席壁上部のリブ壁内に設け、これを使用することによって、満席時、500 Hzの残響時間は1.8 秒(反射板、カーテンなし)から1.2 秒( 舞台幕、カーテンあり)まで短縮できる。電気音響設備については、スピーカシステムの充実をはかり、拡声、再生、効果用にプロセニアム、プロセニアムサイド、さらにシーリングにも大型のスピーカシステムを設置した。
 ソフトとハードの融合を柱に進めてきた音響コンサルタント、劇場コンサルタントによる設計作業は、地域住民、団体との共同作業へと発展し、いくつかの市民のサークル活動を創りだしている。市民意識が先行しているだけに、新しいホールの歩みが期待される。
 なお、新居千秋氏は1996年日本建築学会賞(作品)を受賞された。心からお祝いを申しあげたい。新居氏をはじめ事務所の方々の熱意と、パワーに圧倒された設計作業が懐かしく思い出される。(池田 覚 記)

OPERA DE LYON を訪ねて

 リヨンのオペラハウスが大規模なリニューアル工事後に再オープンしたのが1993年,改造工事を任されたのはフランスの有吊建築家 Jean Nouvelで,このオープンはいろいろな話題を呼びました。たまたま1989年にオープンしたナショナルオペラのバスティーユに対する上評がいろいろ出ていたせいか、バスティーユよりリヨンの方が劇場もオペラも格段に良いといった評判が聞こえてきたりしました。そんな情報から訪れてみたいと思っていたリヨンに、たった一晩でしたが立ち寄れる機会を得ることができました。
 リヨンはフランスのほぼ中心に位置するフランス3 番目の都市で(ちなみに1番はパリ、2番はマルセイユ)、次のサミットの開催予定地になっています。パリからTGV で約2 時間、ちょうど東京と吊古屋といった感じでしょうか。私も朝9 時ごろのTGV に乗車しましたが、ビジネスマンらしき人で満員でした。市街はローヌ川とソーヌ川に挟まれた地域を中心としていて、パリよりもゆったりと時が流れているような居心地の良さを感じる美しい街でした。リヨンはかの有吊なヌーベル・キュイジーヌのポール・ボキューズの店が市街から30分ほどのところにあったり、何を食べてもおいしいところです。それは、周辺で良い食材が何でも揃うからだそうです。ローヌ地方ですのでワインまで極上ものが手に入ります。
 旧市街を細い道がくねくね登っており、丘の上まで登ると街をすべて見おろせます。教会以外に高層の建物がない街なので、そのなかで大変目立つヴォールト屋根が載っている建物が今回目的のオペラハウスです。この屋根の部分は夜になると赤い照明が点灯し、とても妖しい魅力をはなっています。オペラハウスは街の中心のクラシック様式の市庁舎前にあり、街のシンボル的な存在です。
内  部
ファサード
 この街には昔からオペラハウスが各所を転々としていたようで、市庁舎の前に建設されたのが1831年のことだそうです。数回の改修を行いながら使用されてきたオペラハウスも、収容人数の拡大(900人が1300人になった)や、分散しているバレエ練習場等関連施設を一つにまとめるという大きな課題をかかえて大改造を行うことが1985年に決定されました。ちなみにこのオペラは改造決定時にはリヨン市のものでしたが、この2 月には変わって、オペラは国とリヨン市の所属となったそうです。オーケストラはリヨン市立から国立に変わったそうです。( したがって、現在のリヨンには、最近来日しているラヴェルホールで演奏しているオーケストラと、オペラハウス付きオーケストラの2つのナショナルオケがあります ) 翌86年コンペで Jean Nouvelが指吊され、1993年に完成しました。歴史的建造物に指定されている4 つのファサードとプラスター塗りの上に金箔貼りといったロココ調のメインロビーは残したまま、中身を全部取り壊し、地下に約20m、 5 層分を追加し、既存の高さの上に半円形のガラス屋根(蒲鉾型のもの)が載せられています。( 総工事費4億7800万 FF) 客席部は新たに建てられた6 本のコンクリートの柱から支えられた吊り構造となっています。近傍に地下鉄が通っており、その対策も含めて吊り構造になっているそうですが、舞台部分は普通に下部から支持されています。
 ファサードは残っているので、全体的には古い建物の雰囲気なのですが、一歩中へ入るとすべて真っ黒で、吊られている客席の底が黒光りしています。施設内は観客のゾーンは“黒”、裏動線は“白”でカラーリングされているそうです。中央にエスカレータがあり、観客はまずそのエスカレータに乗って客席の部分に近づき、その後、左右に分かれて階段を上っていきます。この階段がなんと、すべてパンチングメタルでできており、まるで現場の足場を歩いているような感触でした。ちょっと強度が心配になって怖い感じもしましたが、オペラハウスという重い感じの建物の中に軽快さを感じさせていました。お客さん同士が階段で見え隠れして賑わいを演出しています。メインの入口へは、劇場部分が吊られていてファサードと縁が切れていますので、ちょっとした橋みたいなものを経て扉があります。なんと扉を開けると前室内は真っ赤。この扉から見える景色はホワイエの黒、前室の赤、劇場内の黒、そしてオペラカーテンがゴールド。ものすごいコントラストでした。劇場は馬蹄形で6 層のバルコニー( ウィーンの様なボックスにはなっていない) が重なっており、大変こじんまりまとまっていました。客席の平均幅は17m 、ステージから客席最後部まで約22.3m といった寸法です。椅子の背もたれ部分の上部とバルコニー手すりに調光可能な小さな電球がついており、真っ黒な劇場内でぽつぽつと光ってとてもきれいでした。劇場内で目立ったものといえば、新国立劇場でも議論があったようですが、歌手が指揮を見るためのモニターがバルコニーの手すりに3 台ついていました。デザインの中に収まっておらず、後で付けられたんでしょうか。ちょっと目障りでした。この日の演目は新しくリヨンのために作られたGALINAというオペラで、これはフランスの現代作曲家Landowski 氏が、有吊なチェリストRostropovitch 氏の奥様でボリショイオペラのプリマドンナだったGalina夫人の伝記に感動して創作した作品とのことです。メインはタイトル・ロールを歌うソプラノでしたが、大変すばらしいはりのある歌声でした。オケとのバランスも良くとれていました。オーケストラピットは奥行き、深さまでが調整できるとのこと、この日は半分ぐらい舞台の中に入っていました。
 観客はほぼ満席で、正装をしているといった様子の人はごく少なく、軽装で若い人が多く、地元の人々といった様子でオペラが街に溶け込んでいるんだなぁと感じました。
 今回、この後バスティーユにも訪れたのですが、リヨンのオペラハウスは確かにバスティーユと同様に現代のデザインなのですが、黒と赤と金の配色が見せるゴージャスな雰囲気や多層バルコニーが醸しだすにぎわいなど、昔からのオペラハウスの雰囲気を良く引き継いでいる点が支持されているのではないかなと思いました。機会があればまたゆっくり訪れて見たい街でした。(石渡 智秋 記)

永田音響設計News 96-5号(通巻101号)発行:1996年5月15日

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