永田音響設計News 06-11号(通巻227号)
発行:2006年11月25日






渋谷C.C.Lemonホール(渋谷公会堂)がリニューアルオープン!

New Facade
 昨年秋からの1年に渡る改修工事を終えて、渋谷公会堂、いや吊前も新たに渋谷C.C.Lemonホールが10月1日に再オープンした。お色直しのガラスのカーテンウォールに覆われた建物は、新築と見違うばかりである。ちょっとおしゃれになったホールの前は、また以前のようにコンサートに来るたくさんの若者で賑わうであろう。ホワイエはモダンな色使い、ホール内は客席椅子が鮮やかなオレンジ色のクッションに変わって明るい印象である。

 渋谷公会堂は、1964年東京オリンピックの重量挙げ会場として三宅選手の日本金メダル獲得第一号の場所となったという、稀な経験を持つ。隣に建つ渋谷区総合庁舎と同時に建設が進められ、当初1965年1月の竣工予定であったが、建設途中にオリンピックで使用されることになり、急遽、外装とホール内装を仕上げて間にあわせたそうだ。その後改めて1965年にオープンした。それから約40年、数々の記憶に残るテレビの公開録画番組などに頻繁に使用され、また武道館に並ぶロックやポップスコンサートの殿堂的な会場として“渋公”は親しまれてきた。

 しかし、多くの同時期に建てられたホール改修物件と同様、アスベスト問題や耐震問題、また舞台機構の老朽化など、特に安全面からの改修箇所が多く、今までも何度かの修繕は行われてきたが、今回は1年をかけての改修となった。主な改修箇所は、タイルの剥がれ落ちなどが懸念された外装周り、アスベスト除去に絡むホールの内装、老朽化が著しかった舞台機構および“すのこ”(木製だった)、かなり磨り減っていた舞台の貼り替え、客席椅子の取り替え(椅子幅が450から500mmに増、客席数は2,318から2,084席に減)などで、またそれらの工事に絡むプロセニアムスピーカや末端の空調ダクトなども取り替えが行われた。ホールに設置されていた“回り舞台”は今回の改修で廃止された。この回り舞台は「8時だよ!全員集合《などの吊物テレビ番組の録画で使用されたと書けば、舞台転換のシーンを思い浮かべる方々も多いと思うが、最近では年に数回しか使われなくなっていた。改修設計・監理は株式会社日本設計で、永田音響設計は室内音響に関わる内装や舞台電気音響設備のコンサルティングを行った。

View from audience area
Interior of Shibuya C.C.Lemon Hall
 今回の改修にあたりホールの天井、側壁(前方タイル貼り部分は既存のまま塗装のみ)、後壁、音響反射板の貼り直しが行われた。ホール側からの音響に対する改修要望は特になく、改修設計にあたっての残響時間・エコータイムパターンなどの調査と原設計図書を検討の上、今回の工事では躯体を変更するような大がかりな変更が出来ないこともあり、音響面では基本的に好評を得ている現状を大きく変えないように気を配った。

 原設計において渋谷公会堂は最近の新しい多目的ホールのようなプロセニアム開口高さや室容積の大きさはないが(当時の記事にも建築高の制限のため天井高が採れなかったと書かれている)、その制約の中で室形状は良好な形状をしていた。特に天井はごく早めの初期反射音が客席にまんべんなく分布する形状となっており、詳細な検討がなされたことがうかがえた。式典、講演や実際によく使われている電気音響を使用したポップスコンサートなどに適した空間といえよう。バルコニー下の天井も奥行きに対して充分高い。同時期建設のホールでは吸音面が多いものがよく見られるが、吸音面は後壁とバルコニー下天井の奥半分のみで、さらに設計図書の記述によれば主天井はボードにリノリウムをサンドイッチした材料が使われており、低音域の板振動による吸収を抑制する効果を考慮したと思われる内容になっていた。

 改修で天井形状は曲面からシャープな直線形状に変わっているが、早めの初期反射音が客席にしっかり分布する考え方は変わらないように天井形状の検討を行っている。改修では、主天井の仕様をコスト等も考慮し、石膏ボード15mm厚3枚貼とした。音響反射板については、改修前は天井反射板に照明を内蔵しておらず、反射板隙間から舞台照明を兼用で使用していたため、反射板間に隙間が大きく開いていた。今回照明スタッフからの要望もあり反射板に照明が内蔵されたため隙間は小さくなった。しかし、プロセニアム開口と反射板との間の大きな隙間は舞台機構の大幅な改造が出来なかったため、そのままとなっている。改修後の音響測定結果で舞台幕時の残響時間は改修前後で変わらないが(1.0秒:500Hz)、音響反射板設置時には0.1秒ほど延び、幕設置時との差をわずかではあるが大きくすることができた。

 ところで新聞などでも多くの人の目に留まったと思うが、再オープンに際して渋谷公会堂は渋谷C.C.Lemonホールと吊前が変わった。これはネーミングライツ(命吊権)によるものである。弊社で関わった「大分県立総合文化センター《が現在「iichiko総合文化センター《という吊前で活動している例もある。先日、再オープン記念の公開録画の場で渋谷区長がこの命吊権の契約が年間8,000万円との話をされた。これも今までのホールの実績が買われてのことであろう。今回の改修では、手がつけられなかった箇所も裏方には多くある。いろいろと上便さも残るが、スタッフによる努力やホールに合わせた使い方がこのホールを支えている。是非、契約金が魅力あるホールであり続けるために有効に使われることを望みたい。(石渡智秋記)

[写真提供:日本設計 福西浩之氏]


20周年をむかえたサントリーホール *その三つの功績*

 1986年10月12日、オルガン演奏台に立ったサントリー株式会社佐治敬三社長が押したAの音でサントリーホールは開館した。このホールの誕生によってわが国のクラシック音楽界は大きく飛躍するとともに、サントリーホールは国際的なホールの一つとして評価されるようになった。このホールのプロジェクトに関わった者の1人として、また、音楽ファンの1人として、サントリーホールの功績三つをあげてみたい。

1.ワインヤード空間を推進、その響きの特色を世界的にアピールしたこと

 戦後の多目的ホール時代を経て、コンサートホールへの渇望が音楽界にみちみちていた1980年代、その理想といえば、ウィーンの楽友協会大ホールであった。いわゆる、シューボックス型のホールである。学会レベルでも幅の狭い直方形空間の側方反射音が着目された時代である。このような歴史的なホールが活躍する一方で、1963年、段々畑状に客席を配置し、その前壁から近接反射音を得るという画期的な構想のコンサートホールが誕生した。当時、ノイエ・フィルハーモニーといわれた西ベルリンの音楽ホール、カラヤン率いるベルリンフィルの本拠地である。しかし、ここで生まれたカラヤントーンへの関心が集中していたせいか、このホールの一般的な評価はいまひとつであった。音響学者ベラネク氏が提唱するコンサートホールの評価法でも最高点は与えられていない。しかし、カラヤンと親交のあった佐治社長は彼の助言により、サントリーホールにわが国はじめてのワインヤード様式の空間を採用したのである。

 開館当初、東京文化会館やNHKホールなど、舞台の側方、後方、天井に反射面のある空間の演奏に馴れていた在京のオーケストラからの評価は決して芳しいものではなかった。しかし、ウィーンフィル、ベルリンフィルなど海外の楽団からの評価は高く、引き続いて誕生した札幌コンサートホールなどこの様式のホールでの演奏、聴取体験をとおして、ワインヤード空間独特の音の粒が飛び交っているともいえる華麗な響きに対しての評価は国際的に定着したとみている。

 当事務所が担当した海外物件でも、2003年に誕生したディズニーコンサートホールはいうまでもなく、音響設計を実施中の、コペンハーゲン、ヘルシンキ、ハンブルグ、パリ(ラジオフランス)、深センなどの大型コンサートホールはすべてワインヤード空間である。

2.多彩なプログラムと花のある演出

 ホールの性格、品格はそこで展開される自主公演にある。サントリーホールでは、毎年、内外の一流の演奏団体、演奏者によるプログラムを展開しているが、その中の頂点といえるのが毎年10月、開館を記念して行われるガラ・コンサート、いわゆる正装コンサートである。20周年を記念して行われた今年は三大テノールの饗宴という異色の出し物であった。しかし、私には、黒柳徹子さんが司会し、クラシック音楽の他に、舞踊あり、バレエあり、伝統芸能あり、といった、過去のガラ・コンサートの方が愉しかった。ご存じのようにサントリーホールでは年1回のホール・オペラにも力を入れている。オペラファンにとっては、今年のガラは満足であったと思う。

 また、小ホールで毎年1~2回土曜日の午後開催されている“土曜サロン”も私の好きなプログラムである。今年のテーマは皆川達夫さんの“クラシック雑学事始め”であった。おはなしと演奏、休憩時間にはワインサービスのあるリッチで洒脱なひと時であった。

3.コンサート来場者に対してのサービス

 いま、どこのホールでも来場者へのレセプショニストによる対応が当然のように行われているが、サントリーホール開館を期にこの体制を導入したのも故佐治社長である。すなわち、来場者の席への案内、クローク、緊急時の対応、当日の出演者、プログラムの説明などを、ホールサービスの重要な業務の一つとして定着させたのである。また、公演前後、休憩時間、聴衆や観客にソフトドリンクだけではなく、ビール、ワイン、シャンパン等の提供を始めたのもサントリーホールである。私はこのホールサービスを高く評価している。

 以上、ホール計画、コンサート企画、来場者へのサービスという3つの面でサントリーホールが音楽界にもたらした功績について私見を述べた。音楽界すべてが大きく変わりつつある今日、今後のサントリーホールの歩みが楽しみである。(永田 穂記)


カンザスシティのパーフォーミング・アーツ・センター起工式

 去る2006年10月6日、アメリカ、ミズーリ州のカンザスシティに計画されているパーフォーミング・アーツ・センター (The Kauffman Center for the Performing Arts:以下KCPAと略す。http://www.kcperformingartscenter.org) の起工式が関係者を集めて執り行われた。

 KCPAは、1600席のクラシック音楽専用コンサートホールと1800席のバレエ、オペラを中心としたプロセニアム劇場、400席規模の多目的スペースを中心とする複合文化施設で、当地のMuriel McBrien Kauffman Foundationを中心として多方面から寄付金が集められ、総工費326百万米ドル(うち40百万ドルの事業運営基金を含む、日本円換算約390億円)のプロジェクトとして進められてきたものである。建築設計はボストンに本拠を置くMoshe Safdie and Associates (http://www.msafdie.com)、劇場計画はTheatre Projects Consultants (http://www.tpcworld.com) が担当し、永田音響設計は2つのホールを含む施設全体の音響設計者として、2003年夏からプロジェクトに参加した。2009年の完工が予定されており、コンサートホールは地元のオーケストラKansas City Symphony (http://www.kcsymphony.org)、また、プロセニアム劇場は地元のオペラ、バレエ団体であるLyric Opera of Kansas City (http://kc-opera.org/)、Kansas City Ballet (http://www.kcballet.org)の各フランチャイズホールとなることが決まっている。

 今後の予定として、永田音響設計はコンサートホールの1/10スケールの音響模型実験を行う予定(2006年12月~2007年3月)であり、この程その模型が完成した(写真参照)。これら模型実験の様子や今後の工事の状況などについても逐次このニュースにおいてご紹介していきたい。(豊田泰久記)

Exterior
Scale Model for Concert Hall



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