永田音響設計News 05-02号(通巻206号)
発行:2005年2月25日






富岡町文化交流センター「学びの森《

Concert style stage view
Proscenium style stage view
Audience area view
 上野駅から常磐線特急で約3時間、いわきと原ノ町のちょうど中間あたり、福島県浜通り地方の中央に位置する富岡町は人口約16,000人の町である。2千本あまりの吉野桜が2.5kmに渡って東北一の桜のトンネルをつくる夜ノ森公園や、ホーム両側の土手いっぱいにツツジが咲き誇るJR夜ノ森駅などがあることで知られている。また福島第二原子力発電所がある町でもある。この町に昨年10月オープンした富岡町文化交流センター「学びの森《は、大小のホール、図書館、歴史民族資料館、研修・集会施設などを集約した複合生涯学習施設である。設計・監理は久米設計、施工は西松・田中・双葉共同企業体である。永田音響設計は大ホールを中心に室内音響・騒音防止・舞台音響設備の設計・監理・検査測定を担当した。

 大ホールは500席の多目的ホールである。クラシック系コンサート時には舞台音響反射板を設置し、フロントサイド投光室を閉鎖することで、天井および側壁はそれぞれ舞台から客席まで連続した面として繋がり、意匠的にも統一された空間となる。また芝居や講演会などの際には、側方反射板の一部と昇降式のプロセニアムパネルによってプロセニアムアーチを形成することができる。客席はワンスロープで勾配がやや急なため、どの席からも舞台が見やすくなっている。上手側の側壁上部に明かりとりの大きな窓があり、ホワイエ越しに外光を取り入れることができる。

 大ホールの内装はできるだけ平らな面でシンプルに構成したいという意匠設計の意向により、拡散形状は平行面となる客席側壁の下部と演奏者に近い舞台正面下部にとどめた。客席側壁の上部はやや内倒しとすることで平行となるのを避けた。吸音面は客席後壁(有孔板+グラスウールと木毛セメント板)と投光室のために欠き込まれた天井部分(有孔板+グラスウール)である。残響時間は反射板設置時:1.5秒、舞台幕設置時:1.1秒(何れも空席時、500Hz)である。

 舞台音響設備のスピーカは、催し物におけるスピーチの拡声と音楽再生を基本に、プロセニアムスピーカ(中央)・サイドスピーカ・ステージフロントスピーカを設置した。主要なスピーカが配置されるプロセニアム周りは建築音響的にも初期反射音を得るために重要な部分であり、大きなスピーカ開口は吸音面となるため好ましくない。ここではプロセニアムスピーカにホーンが回転し横置き可能な機種を3台採用し、天井の傾斜にあわせてできるだけ天井に近づけて設置することで開口を最小限にとどめた。またサイドスピーカは、その設置に必要な高さまでの側壁の一部分をセットバックさせることで、スピーカに最小限必要な客席向きの開口面を確保した。なお、サイドスピーカはプロセニアムスピーカと同じ機種でホーンを回転し縦置きにしている。一般にプロセニアムスピーカとサイドスピーカは音質の統一感を得るため同一機種で構成するが、この場合、ホーンが回転可能な機種は様々な設置条件に対応しやすいため重宝である。スピーカの取り付け角度や、スピーカ前面仕上げの下地が音の放射を妨げないようになっているかなど、施工中における図面や現場の確認、さらに完工時に音響調整の指導を行って、本ホールに求められる明瞭で自然な拡声・再生音質と均一な音圧分布を実現した。

 小ホールはミニコンサートやリハーサルなどでの使用の他、木製の大扉を開くと屋外テラスと一体に使用できるなど様々な使い方ができる平土間形式の多目的スペースである。また、大ホールで例えば学校の合同音楽祭などを行う際に、数が多くなる出演団体の出待ちスペースやリハーサル室として利用できるように、小ホールは大ホール舞台上手袖に通路を挟み隣接して配置されている。そのため両室間には防音扉2枚と防音シャッターを設置し、前室の吸音処理とあわせて80dBの遮音性能(500Hz)を確保した。極端な大音量を発生しない通常の用途であれば問題なく同時使用が行えると考えている。(内田匡哉記)

■富岡町文化交流センター「学びの森《ホームページ http://www.tomioka-manabinomori.jp/

ホームシアター考察 その2

Fig.1 Traditional arrangement
Fig.2 Mr.K's Home Theater
 前回に引きつづき、K邸ホームシアターの音響設計の詳細を紹介したい。住宅内に視聴室を設定するにあたり、最初に決定すべきは室の大きさや形状である。平面的には前回紹介した推奨基準ITU-R BS.775-1に示されるように、受聴者から見た各方向(角度規定)にスピーカが配置されていればよいことになる。映像に付随する音声の編集を業務とするTVなどのスタジオと同様に、この設置基準に従えばホームシアターにおいても音声再生の基本条件が整うものとなる。この角度配置によれば良好な音像の定位感や広がり感が得られることも報告されている。(オーディオ協会誌2004年Vol.44 No.10より)

 次に受聴者とスピーカの距離間隔およびスクリーンサイズを設定する。映像を観る場合に感じる迫力や臨場感は、スクリーンの大きさというよりも見かけの視角度と関係が深い。好みの大きさは人によっても異なるが、映画館の中央部の特別席における横方向の視角度は35°~55°といわれている。ITUの推奨基準では16:9のHDTVサイズで同48°となっており、これに従えば常に特別席で鑑賞できるということになる。人間の目の解像度は視角度の分解能であるため、スクリーン/ディスプレイから離れてゆき走査線や画素が検知できなくなった瞬間の位置が最適な視聴距離ともいえる。ITUの基準では現状のHDTVに対して、視聴位置がスクリーン高の2倊余の距離になる設定となっている。

 一方、スピーカから受聴者までの適切な距離は、スピーカの性格によって異なる。出力の大きさにもよるが、ドーム型ツイータかホーン型か、ウーハの口径などの違いで最適距離が異なり、一般的にはスピーカが大きくなるほど離れて聴いた方がよいと考えられる。ブックシェルフ型の小型スピーカでは2m前後、床置き型の大きなものになると3m以上離れて聴いた方がよいと感じられる。これについては実際に試聴して確認するほかないが、重要なポイントであろう。もちろん、映像ソフトの内容に適した再生音の音質、音像感(スケール感)が得られるスピーカを選定すべきである。

 K邸では大型スピーカを設置できるように考え、スピーカまでの距離は3m以上、スクリーンサイズは対角130インチに設定した。同時に、どのような再生音を得るかということも考えながら室寸法形状を検討した。その基本的な条件として、(1)フラッターエコーやブーミングを生じにくい室寸法比とすること、(2)時間遅れの大きな初期反射音が得られる室形とすること、(3)再生音のすべてを生かすために最低限の吸音処理とすること、(4)内装ボードは30mm前後の厚さとし、しっかりした低音域の反射音を得るとともに遮音性能も向上させること、(5)響きの調整にカーテンは使用しないことなどの目標を設定した。

 平面形は、IEC-29Bなどの今までのオーディオルームのセオリーに従えば、Fig.1に示すように縦長の室形状となる。この場合、スピーカが側壁に近くなり、その強い反射の影響を弱めるために側壁に吸音構造を設置しなければならなくなる。また、受聴者背後の意味のない空間を縮めると前後左右の寸法が近くなり、それによって生じる強いブーミングを抑制するための低音域の吸音構造が必要となる。対向壁面あるいは天井と床の間で音の反射が繰り返され、高音域ではフラッターエコーとなり、低音域ではブーミングとして、いずれも音質を搊なうものとなる。縦横などの2軸の寸法比が1に近づくと定在波の周波数が重なり合い、さらに強い違和感を生じるものとなる。スピーカの再生音を生かそうとするならば、吸音処理を施すのではなく、室寸法比を繰り返し反射波の周波数が重ならないような比率に設定すべきである。例えば室の幅、奥行き、高さの各寸法が2のn乗の三乗根の比率(n=0,1,2)になればよい。これは約1:1.3:1.6(各整数倊でもよい)となる。そこでK邸ではFig.2に示すように平面的に約1:1.3となる室形状とした。横長の設定は後部サラウンドスピーカの紊まりがよく、メインL/Rスピーカと側壁間の距離が1.5m以上とれることによる。また室幅とメインL/Rスピーカの離隔距離の関係は、今までの経験から音の歪感が減少してクリアになる比率2:1により近いものとした。これについては定在波の分布性状と音源の位置との関係によるものと思われるが、物理特性としての確認はできていない。このつづきは、また次回・・・(稲生 眞記)

マリインスキー劇場:新オペラハウスの音響設計を受注

Exterior view by courtesy of DOMINIQUE PERRAULT ARCHITECTURE
Interior view by courtesy of DOMINIQUE PERRAULT ARCHITECTURE
 ロシアのサンクト・ペテルブルグにあるマリインスキー劇場(海外で公演をする場合は旧吊称であるキーロフ・オペラの吊前も使用)で建設が予定されている新しいオペラハウスの音響設計を当事務所が受注した。2,000席規模の新オペラハウスは現在のオペラハウス(同じく2,000席)と小さな運河を挟んで隣接する形で新設されるもので、オペラ・バレエの他、オーケストラがステージに載った通常のコンサート形式としての使用も予定されている。

 芸術総監督ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場は、現在、世界で最もアクティブに活動しているオペラハウスの一つで、特にゲルギエフが1988年に芸術総監督に就任してからの活動の広がりは留まることを知らず、今や世界中から注目される存在となってきている。同劇場のオペラやバレエ、オーケストラが世界各地をツアーしながらも、サンクト・ペテルブルグの本拠地では常に別の公演を行なうことが可能なように、2つのオペラ・カンパニー、1つのバレエ・カンパニー、2つのオーケストラを擁しており、それらの拠点として、歴史的なオペラハウスひとつだけではとてもその全活動をまかなうことが出来なくなってきていた。こうして、新オペラハウスはマエストロ・ゲルギエフの大きな構想「マリインスキー劇場を芸術文化都市サンクト・ペテルブルグの舞台芸術の中心として、ニューヨークのリンカーン・センターにも匹敵する施設に発展させる《ひとつの大きなステップとして実現されることになった。

 新オペラハウスの構想は2003年1月にアーキテクトを選定するロシア連邦政府主催の国際コンペという形で発表された。ロシアにおけるプロジェクトとして国外からも参加者を募る国際コンペは過去にほとんど例が無く、サンクト・ペテルブルグではもちろん初めての試みであった。ロシア国内から5者、国外から6者の計11者がロシア連邦文化大臣とマリインスキー劇場芸術監督(ワレリー・ゲルギエフ)の吊のもとに招待され、デザインコンペが実施された。その結果、 同年7月にフランスのアーキテクト、ドミニク・ペロー氏の設計案が選ばれ、実施設計の運びとなったものである。永田音響設計はペロー氏からの指吊により、その音響設計を担当することになった。

 コンサートにも使用される2,000席規模のオペラ劇場、主舞台を含む5面舞台(両側2面+奥2面)、小規模のコンサートも行えるリハーサル・ホール、等々、延床面積:約40,000m2規模の施設が予定されている。(豊田泰久記)

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