永田音響設計News 04-12号(通巻204号)
発行:2004年12月25日






信濃町教会の新会堂が完成

 伝道開始80周年を迎えた信濃町教会(東京都新宿区)の新しい会堂がこの7月に竣工し、9月26日の献堂式を経て新会堂での活動が始まった。

 1930年(昭和5年)に建てられた旧会堂は、歌舞伎座や明治生命館を設計した岡田信一郎氏による洋風の近代建築で、建物の2~3階部分に講堂形式の礼拝堂が設けられていた。教会の方々に大変親しまれていたが、耐震性と老朽化の問題から建て替えることになった。

Inside view of the chapel
■新会堂の概要: 新しい教会堂は八角形平面を基本とした3層吹き抜けの礼拝堂を中心に、西側と南側に小礼拝堂や集会室などの諸室が1~2階に配置されている。外苑東通りに面した西側の正面入口からはエントランスホールを介して礼拝堂の講壇までが一直線に見渡せるようになっており、トップライトからの自然光があふれる半屋外的なエントランスホールによって礼拝堂と街がつながっているイメージが表現されている。礼拝堂は八角形の一辺に設けられた講壇を囲うように約200席の会衆席が円弧状に並べられ、壁や天井の明かり取りから柔らかく光が差し込む親密で落ち着いた空間となっている。設計監理は内井昭蔵+内井建築設計事務所である。内井昭蔵先生が他界されたのはまだ記憶に新しいが、信濃町教会の基本設計が終盤にさしかかった頃とのことで、信濃町教会は先生の遺作となった。施工は戸田建設東京支店(本体工事)とヤマハサウンドテック(AV工事)である。

■室内音響設計: 礼拝堂において一般に音響的に望まれることは、説教が明瞭に聞こえることと賛美歌やオルガンが豊かに響くことである。前者にとって響きは短い方がよいが、後者には長い方が好ましく、両者は全く相反する。この点について会堂建築委員会の方々は、説教の明瞭さを優先し、その上で既に礼拝堂に設置が計画されている新しいパイプオルガンや賛美歌に対してできるだけ響きを長くすることを望まれた。これには電気音響設備の果たす役割が大きく、その検討も踏まえて残響時間の目標値を設定し内装仕上げの検討を行なった。

 講壇背面には拡声時のハウリング低減のために、会衆席後壁にはスピーカ音の反射によるエコー等の防止のためにそれぞれ吸音面を配置し、さらに目標とする響きの長さに対する吸音の上足分を側壁の一部に配置した。また椅子座面は会衆が少ない時に響きが長くなりすぎないよう吸音性の布張りクッションとした。壁と天井の仕上げはボードであるが、パイプオルガンの音を十分に反射し、またビリツキを防止するため積層貼りとし、壁面には音の拡散を意図して大小のリブを設置した。礼拝堂の残響時間(500Hz)は空席時1.8秒、満席時1.4秒(推定)である。

Fig.1 EDT and D50 measured by Line-array
and Omni-directional loudspeakers
■電気音響設備設計: 礼拝堂のメインスピーカには垂直方向の指向性が狭い小型のラインアレイスピーカを採用した。スピーカの指向軸を会衆方向に向けてそれ以外への音の放射を抑制することで残響音の励起を低減し、比較的響きの長い条件下でも説教の明瞭性を確保できる。またこのスピーカを講壇両脇の壁内に設置することで説教が講壇側から聞こえ、講壇への意識の集中が得られるように配慮した。

 説教台と司式台のマイクロホンによる拡声系の音声明瞭度指標(STI値)は0.56~0.68(評価:FAIR~GOOD)が得られている。また賛美歌やオルガンに対する室の響きに比べ、ラインアレイスピーカで拡声した際の室の響きが抑えられていることを聴感的に確認した。これを、無指向性スピーカ(賛美歌やオルガンを模擬)と礼拝堂メインスピーカによる測定結果で比較してみる。Fig.1上図は主観的な残響感との対応が良いと言われる初期残響時間(EDT)である。音声の明瞭さに重要とされる1,000Hz以上の帯域のEDTは無指向性スピーカを用いた場合よりラインアレイスピーカを用いた方が最大0.3秒程度短く、すなわち主観的な残響感が減っていることが分かる。またFig.1下図は音声の明瞭さに関連するD値(D50)である。ラインアレイスピーカによるD値は無指向性スピーカによる値よりも大幅に大きく、1,000Hz以上の帯域では明瞭度確保の目安とされる0.5を上回り0.7前後の高い値が得られており、拡声時の明瞭さが向上していることが分かる。

■音楽会とパイプオルガン: 10月に新会堂献堂記念の音楽会が礼拝堂で催され、信濃町教会聖歌隊の合唱やチェロの独奏などが披露された。聖歌隊の和声が厳かに響くのを聴き、説教が自然で明瞭に聞こえかつ賛美歌やオルガンが豊かに響き合う、という教会の方々の希望に応えられたのではないかと思っている。

 また旧会堂にあったパイプオルガン(1982年、ドイツ・ケーベルレオルガン製、7ストップ)は須賀川教会(福島県)へ譲渡され、現在は’32年~’81年まで使われていたリードオルガンが復帰している。新しいパイプオルガンは来年6月に設置予定で、現在オランダのライル社で製作が進められている。新しいオルガンの響きが楽しみである。(内田匡哉記)

日本基督教団 信濃町教会 TEL:03-3351-4805 http://www.shinanomachi-c.jp/

軽井沢大賀ホールが竣工、寄贈されました

Completion Ceremony
From the left, Mr.Umeda,
Mrs.&Mr.Ohga and Mr. Sato
(photo:Kajima Co.)
 ソニー株式会社の吊誉会長・大賀典雄氏が退職慰労金を充てて建設を進めていた“軽井沢大賀ホール”が無事竣工し、12月5日に竣工・引き渡し式と試聴演奏会が行われた。竣工・引き渡し式ではまず、設計・施工を担当した鹿島建設株式会社の梅田貞夫代表取締役社長から大賀氏へ鍵の引き渡しが行われ、続いて大賀氏より佐藤雅義軽井沢町長へ鍵とともにホールが寄贈された。我々は鹿島建設技術研究所との協働で音響設計を担当した。

 式典にはピアニストの大賀緑夫人も出席されており、大賀氏は挨拶の中で軽井沢町に音楽ホールを寄贈する経緯を語られた。「戦時中軽井沢には何人かのピアノの先生が疎開していた。やはり当時諏訪に疎開していた妻はレッスンのために苦労して軽井沢に通っており、その妻の強い希望によりホールの建設・寄贈を思い立った《。また、続いて行われた記者会見の中で、「ホールをいかに生かすかということについて、みなさんで知恵を出し合っていただきたい《、とホールの将来に対する期待も語っておられた。

Celebration Concert
Symphonia Finlandia conducted
by Patrick Gallois (photo:Kajima Co.)
 式典に引き続いて、町民の方々への披露も兼ねた“試聴演奏会”が行われた。ホールは大賀氏の発案により5角形の平面形状をしている。1階固定席660席と5角形周縁に設けられた2階立見席140席は関係者と一般招待客で満席となり、パトリック・ガロア指揮の室内オーケストラ“シンフォニア・フィンランディア”のコンサートが行なわれた。休憩を挟んで席を移動された大賀氏から、「(音響性能は)良い。5角形にしてよかった《、「(後ろの席でも前の席でも1階後方廊下でも)同じ様に聞こえる《、という評価をいただき、関係者一同胸をなで下ろした。

 ホールは準備期間を経て来春のゴールデンウィークにオープンする。軽井沢町は“町民の芸術鑑賞・創造的文化活動の育成および発展に寄与すること”を目的として東京フィルハーモニー交響楽団と協定を結んでおり、大賀ホールを軸とした音楽文化の振興に期待が寄せられている。音響設計を含めたホールの紹介はオープン後に改めて本ニュースで行なう予定である。(小口恵司記)

ハンブルグの新コンサートホールの音響設計を受注

 この度、ドイツのハンブルグで計画されている新しいコンサートホールの音響設計を永田音響設計が担当することになった。新ホールが建設される場所はハンブルグのハーバー地区で、現在、周辺一帯の再開発が行われている。かつて倉庫として使われた既存施設の上に増設される形で新ホールが建設される(写真参照:Herzog & de Meuron 提供)。

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 ハンブルグといえば、ドイツの代表的な作曲家ブラームスやメンデルスゾーンが生まれたところで、クラシック音楽にとってはメッカともいえる重要な都市である。そこに建設されるコンサートホールということで注目度も高く、その音響設計者として選定されたことに対して誇りと責任を感じる。

 建築設計は、スイスのバーゼルに本拠を置くHerzog and de Meuron が担当する。Herzogand de Meuron は、ロンドンの現代美術館、Tate Modern を担当して高い評価を得たことで世界的に知られており、建築デザイン界のノーベル賞ともいわれているプリッツカー賞を受賞している(2001 年度)。

 新ホールの建築設計者の選定はすでに2001 年に実施されており、その後プロジェクトの主体であるハンブルグ市を中心として、プロジェクトの規模や性格等のプログラムが検討されてきた経緯がある。2004 年になってプロジェクトが実際の設計段階に移行されることになり、音響設計者や劇場コンサルタントをはじめとする各種コンサルタントの選定が行われた。音響設計者の選定は、当事務所を含む数社が世界各国から予め選定され、それらの候補者を対象にプロポーザルの提出、インタビューなどが実施されてきた。そして最終的に今年の10 月に当事務所が正式に選定された。ちなみに、劇場コンサルタントとしてはフランスのリヨンに本拠を置く、dUCKS sceno 社が同時に選定された。

 コンサートホールは、大ホールとして2200-2400 席規模のものが予定されており、オーケストラを中心としたクラシック音楽用のホールとして性格付けされている。また、500席規模の小ホールも計画に入っているが、多目的に利用できるタイプのものにするか、あるいは大ホール同様にクラシック音楽用の室内楽ホールとして計画するのか、未だ検討が進められている。なお、大小のホールの他にはホテル施設が組み込まれることも予定されている。(豊田泰久記)

クレア・ランガン展「フィルム・トリロジー《

 現代映像作家であるクレア・ランガンの個展「[水・青][砂・黄金][火・赤]をテーマにした音と映像の世界:3部作《が恵比寿ガーデンプレイス東京都写真美術館で開催されている。室内に設けられた各ブースの構成などについて永田音響設計が技術協力を行っている。

会期:12月18日~1月30日 http://www.syabi.com/schedule/details/clare_langon_a.html

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永田音響設計News 04-12号(通巻204号)発行:2004年12月25日

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