旧NHKホールは当初、コンサートホールとして計画された。当時の音響設計の課題はもっぱら残響時間であった。騒音、振動防止が音響設計として組織的に組み込まれたのは1961年にオープンした東京文化会館からである。1960年の後半からは市民会館、県民会館の吊称で各地に多目的ホールの建設ラッシュが始まる。その頂点に立つのがNHKホール(1972)である。音響設計事務所を設立して最初のコンサートホールが石橋メモリアルホール(1974)であった。コンサートホールの山脈はサントリーホール(1986)を大きなピークとして大小の峰が続き、Walt Disney Concert Hallへと続く。
このサントリーホールであるが、開館直後の評価は演奏者には必ずしもかんばしくなかった。とくに在京のオーケストラグループには‘弾きにくい’という上満が蓄積していることを聞かされた。これは、3方を反射板で囲まれた東京文化会館、NHKホールの舞台条件を考えれば紊得できる反応である。しかし、年月を重ねるとともにこの上安は解消されてきた。このサントリーホールの軽やかな拡がりを感じさせる響きはシューボックスの空間では求められない質の響きである。ベルリンのフィルハーモニーに続き、ヨーロッパではライプチッヒのゲバントハウスが、わが国では札幌の‘キタラホール’があり、いずれも音響効果で定評を得ている。2003年にオープンするWalt Disney Concert Hallもこのワインヤード様式の空間である。現在、ワインヤード様式の演奏空間は聴衆はもちろん、演奏家にも受容されており、21世紀の大型のコンサートホールとして定着するであろう。
‘Back to the Future’は雑誌‘ちくま’の1994年12月号に載った堀田善衛さんの“未来からの挨拶”の冒頭にある言葉である。もともと、ホメロスのオディセイにでてくる言葉とのこと、その意味はわれわれが見ているのは過去と現在であり、未来は背後にあるもの、われわれはすべて背中から未来にはいってゆく、という説明である。