昨年から今年にかけて、音響関連の学会の記念大会・行事が続いた。今年の音響学会春季発表会は関西支部創立60周年を記念して、3/17~19に同志社大学・新田辺キャンパスで開催された。室内音響分野では”音場の評価と設計”と題したスペシャルセッションが組まれ、ホール音場の予測、物理指標、音場支援などに関するレビューと研究発表が行われた。当社はポスターセッションで、ナディアパーク、富山市芸術文化ホール、長岡リリックホール、クィーンズランド音楽院の作品紹介を行った。続く4月2日~4日に音響学会創立60周年および騒音制御工学会創立20周年を記念して、"International Symposium on Simulation, Visualization and Auralization for Acoustic Research and Education"-ASVA97が早稲田大学の国際会議場で開催された。コンピュータによる音や振動の可視化、可聴化を駆使した講演とポスター発表が行われ、プレゼンテーションの方法で参考になる点が非常に多かった。当社はホールの室内音響設計で利用しているコンピュータシミュレーション、光学模型実験および音響模型実験の特徴と適用限界について、最近のプロジェクトからディズニーコンサートホール、京都コンサートホール、札幌コンサートホールを例にポスターと模型実験の音で紹介した。
昨年末のジョイントミーティング(ハワイ)からこれまで、ホール音場のモデル化手法の動向を網羅的に見ることができた。コンピュータシミュレーションでは、幾何音響では取扱いの難しい音の散乱、回折、座席面の取扱いなどを積み残したまま、計算されたインパルス応答にドライソース(録音室の響きを含まない音楽・音声)を畳込んで聴くことができる可聴化技術が広く実用化されている。最近は、波動性を考慮したより正確なインパルス応答の予測を目指して、音の方程式を近似的に解く研究が盛んになっている。音響模型実験では、ディジタル信号処理により1/10より小さなスケールの模型でも、高品質なインパルス応答の測定が可能となり、やはり畳込まれた音楽を聴くことができる。こうしたモデル化手法で得られた音を聴いて、新しいホールの音の響きの絶対的な評価ができるかというと、それは難しい。実際のホールのステージに置かれた無指向性スピーカからドライソースを再生してダミーヘッドを介して録音し、持ち帰って再生してみてそのホールの評価ができるであろうか?
これらを通して、予測でも評価でも今後ますます詳細な内容に入って行きそうな研究と我々の実務とのギャップを強く感じた。タイミングよく音響学会誌4月号では、”室内音響設計の現状と課題”と題する小特集が組まれている。その冒頭で、石井聖光・東大吊誉教授が、”室内音響設計には学術レベルの研究のほかに、実務レベルとの橋渡しが必要な研究が必要である。”と述べておられる。(小口恵司記)