永田音響設計News 97-3号(通巻111号)
発行:1997年3月15日





最近のビデオ用スクリーンについて

*フロント映写とリア映写、その使われ方と映写効果確認会の報告*

フィルムスクリーンの種類
←リア <適応度> フロント→
リア専用硬質スクリーン
(クロスレンチスクリーン)の構造
 多目的国際会議場の建設ブームである。この種の会議場の特徴として、映像情報提示用にリアスクリーンが必要である。このスクリーンには、会議の進行に合わせた進行議題その内容説明用の情報、また会議の全体テーマを別々のスクリーンに表示するためにマルチスクリーンも必要である。さらに多目的利用の一環として大型画面への映写も考慮しなければならない。このスクリーンは映写距離が必要でフロント映写となる。大型の国際会議場ではステージ位置を可変としている場合があり、映写機能に対する対応が益々難しいものとなっている。
 フロントスクリーンの用途は主に大型画面での観賞で、フィルム映写がほとんどであった。しかし、最近ではビデオプロジェクタの発達(画面の明るさと映写距離)でビデオ映像も映写できるようになってきた。また、リア映写では、会議、講演会などで使用する資料提示用でいわゆるプレゼンテーションと呼ばれているものである。この時にマルチスクリーンを使用する。欧米では3 面マルチスクリーンがほとんどであるがわが国ではまだ2 面が主流である。マルチスクリーンでは1 画面のサイズは比較的小型ですみ、プロジェクタ設置スペースに制限のあるリアスクリーン方式にとって好都合である。ところが専用の両方式スクリーンを個別に採用するとフロントとリアスクリーンとの同時使用が無理であることとフロントスクリーンは移動型となり大きなスクリーンを設置できないばかりか、固定型のように歪まず、しわにならないようにできないのである。したがってフロント、リア両方式兼用スクリーンの必要性が生じてくる。しかし、現時点で兼用スクリーンは、高分子フィルムを使用したものしかなくその画質の明るさについてはロスが大きいので相当暗くなり各方式専用のスクリーンを使用すべきといった意見が大勢を占めていた。しかし、この一見正当に思える意見も実は運用上重大な欠点を持つ事はすでに述べたとおりである。こういうことがきっかけで、専用スクリーンと兼用スクリーンの比較をしてみようということになった。
 リア専用としては硬質プラスチック(垂直方向と水平方向のクロスレンチキュラレンズ使用)とスチュワート社製フィルムスクリーンの2 種、そして兼用スクリーンは軟質フィルム(ゲレッツ社製オペラ)の計3 種である。結果は3 者とも極端な差はなくリア専用硬質スクリーンもフロント映写にも使えそうだし、兼用フィルムスクリーンもいわれているほどロスを感じることはなく十分実用になる。価格と施工、保守のしやすさで選べることが分かった。ここではゲレッツ社オペラを選択した。(浪花克治 記)

大阪ドーム・スーパーコンサート視聴記

大阪ドーム外観
3月1 日にオープンした大阪ドームのオープニングシリーズであるスーパーコンサートを聴くチャンスに恵まれた。このコンサートは3 月4 日(火)の2 大テナーのプラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスとポップスシンガーのダイアナ・ロスの共演である。座った席はメインスタンド下段1 塁側の後方である。ステージは反対側のバックスタンド・スコアボード側である。その距離100mはある程度離れており、ステージ上の人物の顔はもちろん動作すら分からない。
 このような状況で、どこにスピーカがあるのか探さなければ分からないほど相対的に小振りなスピーカシステムであった。にも拘らず、クリアーで音質も大型スピーカクラスタにありがちな歪み感もなく、まるで小さなイベントスペースでのコンサートのような良い音であった。これは感激ものである。台数までは良く分からなかったがMEYER のMSL-10,5,3の組み合わせであったようだ。各3 ~4 台を1 セットとし、これをステージの上、下手にフライング設置していただけである。
 数年前に東京ドームで聴いたコンサートとは大きな違いである。壁のように積まれたスピーカから歪んだような音で拡声していたのである。また、スコアボード兼用大型映像装置の大きさ(35m×10m)にも感激した。出演者の表情までもはっきりとこの席でも見る事ができた。とても感激できた1 日であった。(浪花克治 記)

二つの劇場見学記

 東京では今年の春、世田谷の三軒茶屋に“世田谷パブリックシアター”が、秋には新宿初台に話題の“新国立劇場”がオープンする。世田谷パブリックシアターは 600席と 240席の劇場専用施設、新国立劇場は1800席、1000席の大中劇場と400 席のオープン劇場をもつわが国はじめてのオペラ、ミュージカル専用の施設である。
オペラ劇場の舞台から客席を見る
 2 月27日10時30分より建設省関東地方建設局主催の新国立劇場竣工式が中劇場で行われ、設計、工事関係者と周辺の住人の方々が招待された。建設経過の説明、建設側から運営側への鍵の引き渡し、設計、工事関係者への花束贈呈に続いて、地区小学生による合唱、演劇リハーサルの実演などがあり、その後は施設の見学という定式どおりの竣工式であった。しかし、わが国最初の国立オペラハウスの竣工式としては地味な式典であった。
 当日の経過説明によれば、国会で第二国立劇場(新国立劇場は最近に吊称、われわれは二国と呼んでいた)の建設が決議されたのが昭和41年、設計がスタートしたのが昭和60年工事開始が平成4 年というから、今日までに30有余年という異常な年月が費やされている。音響設計に限っても、途中で委員会が消滅し、設計者がアメリカのBeranek 氏に代わるといった上透明な事件があった。私どもの事務所は電気音響設備設計を担当したが、オペラ演出の某氏からオペラにはこんな設備がなぜ必要なのか、とこっぴどく叱られたことなどこのプロジェクトについての思いは複雑である。しかし、一番苦労されたのは、文化庁のもと、内外多数の舞台専門家、コンサルタントの主張が飛び交う中で、建築をここまでまとめられた(株)TAKの柳澤孝彦氏であろう。
 この新国立劇場は甲州街道と山手通りがクロスする初台交差点、劇場の正面頭上を高速道路が走るという欝陶しい場所にある。外観だけは見慣れていたが、中にはいったのは今回が初めて。石と水をあしらった前庭からプロムナードに入ると、正面がメインのエントランス、右手がオペラハウス、奥に中劇場がある。敷地がないときいていたが、アプローチやロビーには余裕があり、柳沢さんの気品のある控え目なデザインが心地よい。劇場の意匠も最近のホールにはない落ち着きを感じる。まだ、演奏は聞いていないが、音といえば、この式典での女性の司会者の音量が異常に大きく割れていたこと、式典ではよく出くわす音風景とはいえ、慎重に試聴を重ねて導入した音響設備であるだけに、こんな使い方をされたのは残念であった。
 この新国立劇場の建築は国際的にみても決して見劣りしない。周囲の環境を除けばむしろ優れているように思える。しかし、問題は多くの方が指摘されているように、今後の運営にある。それに、言葉の問題を抱えるオペラというジャンルが果たしてどこまでわが国に定着できるだろうか、という疑問がある。音響設備の設計を担当した私どもとしては、これだけの設備を誰がどのように使いこなすであろうか、これが最大の関心事である。観てよかった、面白かったといえる出し物を願っている。

主劇場の可動舞台
 引き続いて3月11日の午後、(社)劇場演出空間技術協会の主催で、世田谷パブリックシアターの見学会が行われた。まず、シアタートラム(小劇場 240席)で、設計者の(株)アトリエRの代表斉藤義氏から施設の概要、設計の経緯、本施設の特徴などの紹介があり、小劇場、主劇場の見学にはいった。主劇場では舞台のスケネとよばれる可動の側壁や客席を上下に動してオープン劇場からプロセニアム劇場への転換の実験などが行われ、また、機構、照明、音響、それぞれの工事担当者からの説明もあった。前述の新国立劇場とは規模、性格の違いの他に、劇場計画へのアプローチ、建築設計を取り巻く環境などに大きな違いがあることを感じた。すなわち、
(1) 斉藤義さんは演劇を愛し、劇場計画に情熱を傾けておられる建築家のお一人、この斉藤さんが実質的にはスーパーアドバイザーとして計画から運用まで一貫した流れの中でこのプロジェクトを進められてこられた。公共ホールの定番となっている、有識者で構成される委員会の決議に設計が追従するという方式でなかったことが何よりの特色といえようこれが可能だったのは、この施設が国立の文化施設ではなく、世田谷区の再開発事業の中のホールという動きやすい環境にあったからではないだろうか。
(2) 再開発事業という制約のなかで、稽古場3 室、音響スタジオ、作業場3 室、大道具の搬入など、制作に対応できる総合的な劇場施設である。このような割り切りはよほど確固とした思いが関係者に浸透していないと実現できるものではない。
(3) 舞台の側壁を動かすだけではなく、舞台と一階席の前半の高さをかえ、オープン劇場からプロセニアム劇場へ転換する、といった大規模な可変機構から小劇場のセリダシ観覧席を側壁から押さえそのフレを止めるといった細かい機構まで、斉藤さんの劇場への思いと気配りがこの劇場の隅々まで染み込んでいる感がある。
(4) 劇場空間の響きはクラシックホールを感じさせるほどライブである。生の声には問題は無いが、マイクを使った催し物、大音量の効果音の再生などはどうであろう。
(5) クラシック音楽はインターナショナルであるが、演劇というのは個性的であり、演出空間、設備に対して共通の解を求めることは難しい。高度な舞台設備が集積されているこの施設、既存の劇団の多様な主張にどこまで対応できるのだろうか、興味ある課題である。
 東京では今年早々、“東京フォーラム”がオープンし、秋には“すみだトリフォニーホール”がオープンする。以上の二つの施設を加えると、東京の文化施設は一層華やかとなる。施設の特色を生かした催し物が展開されることを望んでいる。(永田 穂 記)

永田音響設計News 97-3号(通巻111号)発行:1997年3月15日

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