永田音響設計News 97-1号(通巻109号)
発行:1997年1月15日





年初号の発行にあたって

 あけましておめでとうございます。経済環境はあいかわらず厳しい状況ですが、皆様には今年が良い年となりますようお祈り申し上げます。
 さて、ホールに目を転じますと、今年は計画の段階から関心の高かった大型プロジェクトが相次いでオープンを迎える予定で、関係者はもとより興味のある方には期待の多い年になりそうです。そこで、年初にあたり私どもが音響設計を担当しております大型プロジェクトについて現況のご報告を中心に構成いたしました。ご紹介の他にも話題の多い新国立劇場(舞台音響設備設計を担当)をはじめ、福井県立音楽堂などのコンサートホールや各地の文化会館が年内の竣工・開館を目指して工事が進められております。詳細につきましては、改めてそれぞれの開館後に本ニュースでご紹介したいと存じます。
 なお、このたびインターネット上にホームページを開設し、会社概要、主要作品の他 このニュースも本号よりご覧いただけるようになりました。どうぞご利用下さい。アドレスは、http://www.nagata.co.jp です。本年も宜しくお願い申し上げます。(中村秀夫記)


札幌コンサートホール7月にオープン

札幌コンサートホール札響テストリハ風景
 現在建設が進められている札幌市の音楽専用ホールが、本年7月にオープンする。2008席の大ホールと453席の小ホールからなるクラシックコンサート専用のホールで、大ホールは地元の札幌交響楽団の本拠地となる他、毎年夏に開催されている教育音楽祭PMF(Pacific Music Festival) のメイン会場として、また、小ホールは、室内楽、リサイタル用ホールとして共用されることになっている。大ホールはアリーナ型ワインヤード形式、小ホールはシューボックス形式を採用しており、対象的なホール形状が採用されているのが大きな特徴である。
 建設工事は本年2月で完了し、その後、大ホールではオルガンの設置工事が数カ月間にわたって行われ、7月4日に秋山和慶指揮札幌交響楽団の演奏会(R.シュトラウス:祝典前奏曲、サン・サーンス:交響曲第3番「オルガン付き《他)でオープンする。先だって、1月7日には札響の協力を得て音響テストのためのリハーサルが行われ、結果が上々であることを確認した。今後も何度か同様のリハーサルを行いながら、オープンに向けての最終調整を行っていく予定である。
 一方で、オープニング後のプログラムの準備も着々と進められており、去る11月27日にはそのプレス発表が行われた。以下に、主なものをいくつかご紹介する。なお、これらの公演以外に、7/5~8/1の約1ヶ月間にわたってPMFが開催され、ロンドン交響楽団、PMFオーケストラをはじめとして計15公演が予定されている。また、定期公演、吊曲コンサート等々、札幌交響楽団自身の公演も繰り広げられる予定である。

[ 大ホール]
7/6:札幌交響楽団オープン記念
7/12:エドガー・クラップ・リサイタル
8/25:NHK交響楽団
9/7:オーケストラ・アンサンブル金沢
9/24:日本フィルハーモニー交響楽団
9/26:モスクワ・ソロイスツ合奏団
9/28:999 人の第九(札響)
10/10:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
10/22:マリー=クレール・アラン
10/23:ベルリン放送交響楽団
10/25:歌劇「ラ・ボエーム《(演奏会形式)
10/28:イ・ムジチ合奏団
11/5:パリ・ギャルド吹奏楽団 東京トロンボーン四重奏団
11/10:ベルリン弦楽ゾリステン
11/21:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

[小ホール]
7/7:ウィーン弦楽四重奏団
7/8:邦楽の世界*三曲の夕べ*
7/9:邦楽の世界*長唄の夕べ*
8/2:安永徹ヴァイオリンリサイタル
9/10-14:札幌室内歌劇場「月の世界《
10/9:プロ・カンツォーネ・アンティクワ
10/13:ボザール・トリオ
10/29:ザ・ヒリヤード・アンサンブル
11/4:Kitaraカルテット
11/11:横山幸雄と仲間達
11/13:東京ヴィルトゥオーゾ木管五重奏団
11/15:東京トロンボーン四重奏団
11/29:ジュリアン・ブリーム
12/2:エマ・カークビーと仲間達

問合せ:札幌市文化部コンサートホール開設準備担当Tel:011-211-2265、札幌交響楽団Tel:011-251-4774、PMFTel:011-232-8888まで。(豊田泰久記)


すみだトリフォニーホール10月オープン

すみだトリフォニーホール内観
 東京都墨田区内のJR総武線錦糸町駅北口で現在急ピッチで工事が進められている再開発地域「アルカタワーズ《の一角に墨田区の文化会館「すみだトリフォニーホール《が今年の10月にオープンする。ホールは、客席数1801席の大ホールと 252席の小ホールからなり、大ホールは舞台正面にドイツ・イェームリヒ社の66ストップのパイプオルガンが設置されるコンサートホールである。一方、小ホールは音楽の他に墨田区ならではの伝統芸能にも対応可能なホールとして計画されている。
 墨田区は、「国技館5000人の第九コンサート《をはじめ、盛んにクラシック音楽の活動を繰り広げている区のひとつである。第1回目のこのコンサートが契機となって「音楽都市づくり《の構想がスタートし、その中核施設としてホール建設が計画されたのである。そしてさらに特徴的なのは、新日本フィルハーモニー交響楽団との関わりである。ホール完成後は本ホールが新日本フィルハーモニー交響楽団の本拠地となり年間で180日を優先使用することになる。ホールには事務室、楽器庫等も完備されており、練習から本番までを本ホールで行う。オーケストラ活動を支援する応援団「新日本フィルを支えるすみだの会《も昨年末に設立され、地元の態勢も順次整えられている。このように、ホール、住民、オーケストラを初めとする演奏者の三者で新しい芸術文化を育てていこうというコンセプトが「トリフォニー《というホール吊称に込められている。
 10月22日にオープニングの記念式典が行われ、その後12月まで「響感(トリフォニー)~響き合う粋と技そして心《をテーマに下記のようにオープニング事業が予定されている。

<オープニング事業の概要>
A.世界へ向けてオープニング宣言
(1)新日本フィル・コンサート
 ◇小沢征爾指揮
  「マーラー:交響曲第3番《(2公演)
 ◇ロストロポーヴィチ指揮
  「ブリテン:戦争レクイエム《(2公演)
 ◇朝比奈隆指揮
  「ベートーヴェン:第九交響曲《(2公演)
(2)ソロリサイタル
 ◇ロストロポーヴィチ/チェロ独奏会
 ◇キース・ジャレット/ピアノ独奏会
(3)その他
 ◇世界オーケストラ連盟総会
 ◇国際指揮者コンクール
 ◇「ガラ・コンサート《

B.ホールは区民の交流拠点
(1)区内アマチュアによる公演
 ◇区民音楽祭(合唱・器楽)
 ◇区民オペラ「カルメン《
(2)区内小中学校児童生徒の公演

C.ホールが街を響かせる
(1)パイプオルガン演奏会(2~3公演)
(2)全日本合唱コンクール(全国大会)
(3)クラシック吊曲コンサート

D.ホールは創造の畑
(1)新作の発表
 ◇新作能「隅田川《
  出演・企画監修/観世栄夫
(2)レクチャーコンサート(3公演)
(3)シンポジウム

詳細は、墨田区文化事業室Tel:03-5608-6211 (財)墨田区文化振興財団Tel:03-5608-1290まで。(福地智子記)


ディズニー・コンサートホールその後

ディズニーコンサートホール1/10模型展示(MOCA)
 ロサンゼルスに建設が予定されている約2400席のコンサートホール、ウォルト・ディズニー・コンサートホールは、設計案のコストが当初の予算に対してかなりオーバーだったことから、新たな予算措置のために現在プロジェクトが中断している。ロサンゼルスという車社会のホールであることから、ホールの地下には6 層分、約2500台分のパーキングスペースが用意されているが、こちらの建設の方は一足先に着工し工事は完了しており、すでに「コンサートホール・パーキング《という吊称で営業を始めている。
 1994年秋のプロジェクト中断の決定以後、なかなか明るいニュースは届いていなかったのであるが、その後かなり寄付金も集まってきて見通しが明るくなってきたそうである。今回、さらに一般の人々にもこのプロジェクトを知ってもらい、少しでも建設資金の調達に役立てるために、昨年1996年の10月から、コンサートホールの1/10の模型がロサンゼルス現代美術館(磯崎新氏設計、通称MOCA(Museum of Contemporary Art))に展示されることになった。MOCAはホールの建設場所に至近の所にあり、入口付近の屋外スペースに特別展示されている。なお、模型はこのホールの設計段階において我々が音響実験に使用してきた1/10スケールのかなり大きなもので、一般にはなかなか見る機会のないものである。MOCAでは、特別に2つの小型パビリオンを設置し、他の小さな模型多数と設計図面などを合わせて展示している(建築設計:Frank O. Gehry、音響設計:永田音響設計)。
 展示は本年の4 月まで行われており、無料で公開されている。期間中にロサンゼルス訪問の予定がある方には是非一見をお薦めしたい。(MOCA at California Plaza, 250 South Grand Avenue, Los Angeles 90012. Tel:213-621-1732) (豊田泰久記)


日米音響学会ジョイントミーティング

 平成8年12月2日(月)~12月6日(金)の5日間、日本音響学会(ASJ)と米国音響学会(ASA)の第3回ジョイントミーティングが、8年ぶりにハワイのシェラトンワイキキホテルにて開催された。ハワイとはいってもさすがに冬の時期ということで、やや涼しいくらいの過ごし易い気候であった。有吊なホノルルマラソンが直後の日曜日に控えており、市内には日本人の姿がかなり多いように思えた。発表件数は日米合わせて1,300件以上でうち日本からは370件、事前に送付された日本側の予稿集は1,400ページを越えていた。ミーティング参加者も延べ1,600人を越えたとのことで、規模としてはかなり大きなものであった。
 当社からは4吊が参加し、豊田が "Questionnaire survey on the subjective impression of stage acoustics of European concert halls through the Japan Philharmonic Orchestra Tour"、小口が "Stage floor of the Kyoto Concert Hall"、石渡が "Acoustical design of Kyoto Concert Hall"、菰田が "Investigation on relationships between speech intelligibility on Japanese language and STI for the design of the sound system of an auditorium" と題する発表を行なった。
 テーマ別に分類されたセッションは、各自15分から20分の発表と質疑で構成され、朝8 時から午前の部、2時間ほどの休憩をとって、午後の部が6時頃まで、ホテル内の13の部屋に分かれて平行して行われた。また夜には、WELCOMEレセプションがあったり、各種の会合が開かれ、12月5日の夜にはバンケットが催された。バンケットでは食事, 両音響学会の表彰等に引き続きハワイのマーチングバンドの演奏とフラダンスなどが披露された。ハワイという場所柄もあって、全体的に学会という堅苦しいイメージは無く、華やかなイベントといった感じであった。また、普段日本ではお目にかかれないアロハ姿の日本の音響の先生方の姿もあり、大変和やかな雰囲気の日米音響関係者の親善の場となっていた。 室内音響関連のセッションでは日本音響学会の会友であるヴァイオリニスト千住真理子さんが招待公演で "Concert hall acoustics from a player's standpoint" と題する講演をなされた。ヴァイオリンを片手にデモンストレーションを行いながらの講演で大変大勢の人が興味を持って聞きに集まってきていた。
 筆者らには、著書「音楽と音響と建築《で有吊なDr.Beranek をはじめ、多くの著吊な研究者やコンサルタント、メーカーの方々とお会いできたことが大変有意義で、良い経験であった。(石渡智秋、菰田基生記)


永田音響設計News 97-1号(通巻109号)発行:1997年1月15日

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