永田音響設計News 97-5号(通巻113号)
発行:1997年5月25日





久世エスパスホールとデュオ三木

久世エスパスホール(ステージ音響反射板設置時)
 先月の4月1日に、岡山県の北部に位置する人口およそ1万人余りの町、久世町に、約500 席の多目的ホール、久世エスパスホールがオープンした。多目的ホールといっても、可動プロセニアム装置を導入することにより、音響反射板設置時にはステージ部分と客席部分がほぼ一体の、いわゆるシューボックス型のホールとなるように設計されており、クラシックコンサート時の音響性能を考慮したものとなっている。しかしながら、この久世町の新しいホールの最大の特長は、舞台機構や、照明、音響設備といったハードにあるのではなく、何と言ってもそのホールを取り巻く周辺のソフトにある。
 設計段階において久世町を初めて訪れて驚いたのは、久世町が独自に設置して運営しているケーブルテレビである。1985年「文化の町づくり」を宣言して町の文化活動、情報活動の一環として町営ケーブルテレビの設置に取り組み始め、1993年に「テレビくせ放送協会」を発足させ、翌年の試験放送を経て1995年に本放送を開始している。ケーブルテレビの加入率は町民の80%を越えており、日々の町のニュースや行事の広報など、今では実際に町民生活に無くてはならないものとして浸透してきている。そしてその間、ホールの建設までを視野に入れたこれらの一貫した活動をエスパス事業と定めて、数々の活動を行ってきているのである(エスパスはフランス語で場所、空間、宇宙の意味)。ホールのオープンの3年前から、「鼓童」「ウィーン・オルフェウス・ピアノトリオ」「ふるさときゃらばん」「ジャズコンサート向井滋春スペシャル」などの公演の他、講演会、シネマトーク、CDを聴く会、等々を企画し、既設の体育館や会議室、ドライブインなどで実施してきており、いずれも町内で話題を呼び、盛況を博してきたという実績がある。
 一般的に、ホールのオープニング事業はホールのオープンのためだけに計画され、それがホール建設の最終ゴールであるかのような扱われ方をされているケースが多い。そのため、オープニング事業終了後はとたんにホールの演目が減り、閑古鳥が鳴いているようなホールがあまりにも多い。ホールオープニング事業といえども、あくまでも地域の文化活動の一環でなければならないことはいうまでもない。久世町の久世町らしいところ、それはホールのオープニングの式典の前にもすでに一般の公演が入っていることにも見られる通常は、式典の前に一般の催物が入るということはあり得ず、式典最優先のスケジュールが設定される。久世町では「式典はいろんな段取りがあって日取りを決めざるを得ないがそれ以前であっても公演があるのなら折角出来上がっているホールを使わないのはもったいない。」と、全く自然な答が返ってきた。テレビ局の運営、ホールの運営、公演事業、いずれもいわゆるお役所仕事とは馴染みにくい性質のものである。この点において、この久世町は完成したホールをきっと上手く運営していくに違いないと確信している。
デュオ三木(三木健嗣、登志江ご夫妻)
 この久世町がホール運営の要として迎え入れたのが、デュオ三木である。デュオ三木というのは、ピアニストの三木健嗣氏と、その奥様でヴァイオリニストの三木登志江さんによるデュエットで、広島県の福山市を本拠地として活動されているご夫妻である。音楽の素晴らしさを少しでも多くの人達に楽しんでもらうために、演奏の依頼があれば立派なホールなどなくとも、学校、老人ホーム、お寺、郵便局、等々、それこそどんなところにでも出かけて行くという。まさにコンサートの出前を実践しておられる。バッハやモーツァルト、ベートーベンといったクラシックの正統派作品はもちろんのことであるが、デュオ三木の面目躍如はむしろ日本や諸外国の民謡、童謡、歌曲などの小品ものの演奏であろう。筆者は、福山芸術文化ホールの設計の時に初めてお会いしたのであるが、登志江さんのヴァイオリンは本当に綺麗な音色でよく歌い、聞く者の心をとらえて離さない。コンサートにおいて、周りのお客さんが、それも日頃クラシックのコンサートなどはあまり聞いたことがないような人達が、次第に演奏に引き込まれていって一生懸命に聞き入っている姿を何度か目撃したことがある。
 ご主人の健嗣氏はピアニストというよりもむしろプロデューサーとしてご紹介した方がよいかもしれない。広島県瀬戸田町のベルカント・ホールという瀬戸内海の小島のホールのプロデュースを瀬戸田町長から依頼され、ピアニストのアレクシス・ワイセンベルクを名誉館長に据えて、数々のコンサートを企画された。瀬戸田にベルカント・ホールありと全国的にも名を知らしめた実績をお持ちである。純粋に技術的な立場からいえば、このベルカント・ホールはごく一般的な多目的ホールであるが、周辺地域においてはコンサートホールとして名が通っている。ホールにおけるプロデュースの重要性を物語る好例であるデュオ三木のコンサートにおいても、この健嗣氏の果たしている役割はもちろん大きい。曲と曲の間にほんのちょっと入る健嗣氏の軽妙なおしゃべりは、美しいヴァイオリンを聞いた後の緊張を程良く解きほぐしてくれる。このおしゃべりと美しいヴァイオリンによる緊張感の緩急が実に心地良いのである。筆者はある時、このご夫妻の練習を拝見して、登志江さんのヴァイオリンの素晴らしい演奏が、健嗣氏の的確なアドヴァイスと、それに対する登志江さんの全面的な信頼によって生み出されていることを知った。健嗣氏をピアニストとしてではなく、プロデューサーとしてご紹介する所以である。
 久世町は、エスパスホールの運営にあたって久世エスパス振興財団を設立し、この三木健嗣氏を芸術文化部長として迎えたのである。健嗣氏のプロデューサーとしての間口の広さから、クラシック関係の公演のみならず、あらゆる方面を視野に入れたうえでの舵取りが期待されている。公共ホールにおいて財団法人などのいわゆる第三セクターを作ってそのホールの管理、運営を行う方法は、単独事業がやりやすい、外部からの人材登用を柔軟にできるなど、役所直営の場合に比べてメリットが大きい。しかしながら、現実には役所のOBの再就職の受け入れ先になったりという弊害ばかりが目立つケースも数多い。久世町の場合は、役所から実際にこのホールを企画した担当者が出向し、そして必要な人材を外部から受け入れるという、第三セクター本来の利点を生かした構成となっている。今後の積極的なホール運営が期待されるところである。(連絡先:久世エスパスホール/Tel:0867-42-7000、三木音楽事務所/Tel:0849-24-1720 )(豊田泰久 記)

サントリーホールが音響学会技術開発賞受賞!!

日本音響学会技術開発賞受賞式
 昨年10月にオープン10周年を迎えたサントリーホールが、日本音響学会の技術開発賞を受賞しました(受賞対象:永田音響設計)。
 この技術開発賞というのは、日本音響学会が、「音響工学の研究成果を適用して開発・創造された技術や製品、音環境などに対して著しい貢献があったと認められるもの」に対して毎年表彰しているもので、今回が第5回目となります。去る5月20日に東京工業大学で行われた通常総会の席上において受賞式があり、受賞代表者永田穂と担当者4名が出席しました。以下に、永田穂による当日の受賞スピーチをご紹介し、皆様への受賞のご報告とさせていただきます。
『この度、私どもが音響設計を実施しましたサントリーホールに対しまして、日本音響学会の技術開発賞という賞をいただきましたこと、担当者一同、感謝の気持ちでいっぱいでございます。
 ご存じのようにサントリーホールは東京地区では初めての大型のコンサートホール、しかも、私どもにとっても初めてのワインヤードという様式のホールです。当時は“コンサートホールといえばシューボックス”という固定観念が支配しており、ワインヤードという形状をベースに進めることにつきましては、不安がつきまとっていました。それに、コンサートホールは音響性能が第一に問われる施設ではありますが、様々な条件との調和を計りながら進めなければなりません。この様な背景のなかで、私どもが音響設計をすすめる上で大きな支え、励みになりましたのは何といっても、オーナーである、サントリー株式会社、当時の佐治社長の新しい時代のコンサートホールを造るのだという熱意と明確な姿勢でした。
 サントリーホールは昨年の秋10周年を迎えました。東京文化会館が半世紀にわたって、日本を代表するコンサート会場として定着していた当時、このサントリーホールの豊かで輝いた響きは新鮮であり、大多数の聴衆にとって歓迎されました。しかし、三方が解放されたステージの音響は、演奏者側にとっては予想されたように、程度の差はあれ、演奏のしにくさについての苦情がくすぶっていました。しかし、それも、海外オーケストラ、演奏家の評価、また、在京オーケストラも次第にこの音場に馴れるということで、逐次解消され、今日、国際的にも評価の高いホールの一つとして活躍しています。これも、計画の当初から、企画、運営、サービスが大事であるとして、これに全力を注いでこられたサントリー株式会社の一貫した努力にあると思います。
 このサントリーホールをきっかけとして、都内をはじめ各都市にコンサートホールが誕生し、多彩なコンサートが開催されております。特に東京は国際的な音楽都市として着目され、連日、連夜コンサートが開催されております。お陰様で、私どもは、特定のホールで様々な演奏を、また特定の演奏を様々なホールで体験できるという貴重な体験を積み重ねることができました。これらのホールでの聴取体験を学界レベル成果と重ねることによって、より、質の高い音響設計を目指してゆきたいと考えております。
 本日の受賞につきまして、ご支援いただいた関係の諸先生方に厚く御礼申しあげます。1997年5 月20日、受賞者を代表して、永田穂。』

“ホ−ル電気音響設備を考える会”開催のご案内

会場案内図
 「ホ−ル完工時の音響調整」をテ−マに、第3回“ホ−ル電気音響設備を考える会”を下記の通り開催致します。最近、出力系機器の機能の複雑化、多様化によってきめ細かい音作りができるようになった一方で、それに伴う問題も生じているように思います。
 是非、多くの関係者の方々にご参加いただきたく、ご案内申し上げます。なお、会費は無料です。お気軽にご参加下さい。
 日時  :7月1日(火)午後2〜4時
 会場  :調布市文化会館 たづくり
      (くすのきホ−ル)
      京王線調布駅南口から徒歩3分
      TEL:0424-41-6111
 お問合せ:永田音響設計/内田まで
    (TEL:03-3351-2151)


永田音響設計News 97-5号(通巻113号)発行:1997年5月25日

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